1.電磁弁(ソレノイドバルブ)とは
制御盤を設計製作する場合に「電磁弁」というものがしばしば登場します。
はじめてこの名を聞いた人はそれがどんなものか簡単には想像できないと思います。では、実際にどのようなものを指すのでしょう。以下、説明していきます。
先ず電磁弁は英語で「ソレノイドバルブ」といいます。「ソレノイド」が「円筒コイル」すなわち電磁石という意味をもっています。そして「バルブ」は「弁」です。意訳して「電磁弁」ということですね。
この電磁弁の目的は、電磁力をもって流体などのラインの開閉や方向を変換することにあります。
2.種類が様々
電磁弁はその種類が様々です。そもそも種類が様々なのは他の電気電子部品でもあり得ることなのですが、この電磁弁については分野を超えて使用される部品ということもあり、このときにいう電磁弁はコレ、あのときにいう電磁弁はアレという具合に同じ電気部品であるにもかかわらず、仕様や構造に特に大きな差が出ます。
1)配管で使う電磁弁
プラントでよく見られる電磁弁です。特に動作がわかりやすいのが蒸気用電磁弁や工業用水用の小径電磁弁です。
これは電磁力で、ラインに設置したバルブを開閉するものが多く構造としては電磁継電器の接点部分の代わりにバルブ開閉機構がアクチュエーターとして取り付いたようなものになります。コイル部に通電するとクローズ状態のゲートがオープンする、またはオープン状態のゲートがクローズするというものです。前者をノーマルクローズ、後者をノーマルオープンといいます。
もちろんノーマルオープン,ノーマルクローズという考え方はなにもプラントの電磁弁に限ったことではありません。電気回路ではa接点をノーマルオープンといい、b接点をノーマルクローズといいます。
2)制御設計での電磁弁
前述の配管で使用する電磁弁も間違いなく電気電子部品ですが、今回の記事で取り上げる電磁弁は主に圧縮空気を被制御流体として扱う部品です。制御設計で電磁弁と言う場合はこちらのものである場合が多いです。
しかし、プラントなどで他分野の人と話をする場合はこの限りではないので上記の意味の電磁弁なのか、これから説明する電磁弁なのか、注意が必要です。
今回は「5ポート2ポジションシングルソレノイド」という仕様の電磁弁について説明します。これの動きをキッチリと理解できていれば異なる仕様の電磁弁での理解も早いです。なぜ「5ポート2ポジションシングルソレノイド」を取り上げるかというと、圧縮空気を動力源とする一般的な機器であるシリンダを動作させる場合に最適であることと、構造理解にも最適であるという理由からです。
以下にシンボルを載せます。これがそのまま動作をあらわしており、とても解りやすい図になっています。
上記が5ポート2ポジションシングルソレノイドの電磁弁のシンボルになります。
部屋が二つ用意され、通電状態か非通電状態かでこの2つの部屋が入れ替わり、圧縮空気の流れが変わります。1つの部屋に5つの通気用接続孔が用意されていることから「5ポート」であり、その5つの接続孔がある部屋が2つあるので「2ポジション」となります。
通常この電磁弁のポジションとしては図面上の右側の部屋が通気用接続孔と繋がっています。そして通電コイルに定格の電圧が印加されると図面上の右側の部屋が接続孔とつながることになります。
更にシングルソレノイドの電磁弁では通電コイルへの電圧印加が無くなればスプリングの作用により再び図面上の左側の部屋が接続孔と繋がることになります。
3)空圧回路例(シリンダー動作)
では、この5ポート2ポジションシングルソレノイド仕様電磁弁を使った空圧回路の例を説明していきます。以下に用意した図をもとに説明しますが、アクチュエーターとなるシリンダーへの接続が変われば動作も変化するということに注意しながら見ていただければよいかと考えます。
a.非通電時
シリンダーのロッドの後退時(引っ込んでいる時)を機械的な原点とした、非通電時の空圧回路を以下に記載します。
上図のような圧縮空気の流れによりシリンダロッドが後退させられているのがわかります。
空圧源から送られた圧縮空気は各種空圧機器を通り、電磁弁の右側の部屋の更に右側の矢印を通りシリンダのこれまた右側に流入します。
シリンダ内の受圧板が流入してきた空気圧で左側に押されます。そしてシリンダの左側から空気が抜けて電磁弁右側の部屋内の左側矢印を通り大気へ抜けていきます。この大気へ抜けていくことが大切であり空圧回路で見落としがちな部分です。
現に筆者も初めて空圧回路をつくったときに大気への排気を考えておらず、シリンダがまともに動かなかった経験をしたことがあります。
b.通電時
電磁弁コイルに定格の電圧が印加されたときの圧縮空気の流れとシリンダー動作について説明します。
上図のような圧縮空気の流れになります。当然ではありますが非通電時とは真逆の動きです。
空圧源から送られた圧縮空気は各種空圧機器を通り、電磁弁の左側の部屋の更に左側の矢印を通りシリンダのやはり左側に流入します。
シリンダ内の受圧板が流入してきた空気圧で右側に押されます。そしてシリンダの右側から空気が抜けて電磁弁左側の部屋内の右側矢印を通り大気へ抜けていきます。
4)他の仕様について
ここまで5ポート2ポジションシングルソレノイドの電磁弁について説明しましたが、前述のとおりこの仕様をきっちり押さえておけばあとは仕様の足し引きで素早く理解できます。以下に三つほど例を挙げます。
ただし、前述にもあるとおり動作に関することだけでもたくさんの仕様がありますのでここに挙げる仕様がすべてではありません。
a.3ポート2ポジションシングルソレノイド
圧縮空気の接続孔が3つで切り替わる部屋が2つの電磁弁です。内部にスプリングをもち自力で原点に戻ることができるシリンダーや自動弁などを使用する場合に相性がいいです。
b.5ポート2ポジションダブルソレノイド
動作位置に動かすにも原点位置に戻すにも、いずれかのコイルに通電する必要のある電磁弁です。シングルソレノイドの場合は停電時などに電磁弁が勝手に原点に戻るため空気回路的に接続されたアクチュエーターも勝手に原点とされている位置に戻りますが、ダブルソレノイドでは電圧が印加されない限り動作が入れ替わることが無いというメリットがあります。
c.5ポート3ポジションクローズドセンター
切り替えられる部屋が3つあり、電磁弁の原点は真ん中の部屋になっています。この部屋ではすべての接続孔が封じられているので圧縮空気の移動は起きません。つまり空気回路で接続されたアクチュエーターも動かないということです。特に停電時に動作停止してほしくまた、空圧源を失ってもアクチュエータのポジションを維持させたい機器などに用います。
反対に停電時にフリーになってほしいアクチュエーターに対しては真ん中の部屋で大気開放にするエキゾーストセンターという仕様もあります。
3.空圧回路も制御のうち
電気による制御設計をすすめる際に、空圧回路についても考える必要があることが度々あります。この空圧機器についてはどちらかというと機械設計者の範囲のようにも思えますが、筆者は電気制御設計者の範囲だと考えています。機械機構やプラントの一部であるシリンダーや配管に接続された流体バルブなどの動作的な仕様は、機械設計者やプラント設計者の得意とするところでしょうが、そのシリンダーやバルブなどの動作を理解し【制御】するのはあくまでも制御設計者の管理範囲であると、筆者は理解しています。
ということは、制御設計者は最終の操作対象であるアクチュエーターの動作仕様を理解し、機械設計者やプラント設計者が望む動作実現のための空圧回路を用意する必要があるということです。
例えば、停電時は原点に戻ってほしいのかそれとも現在位置を維持してほしいのか、シリンダーやバルブなどのアクチュエーターは動力遮断で自力で原点に戻ることができるのか、そもそも原点位置はどこか、ノーマルクローズ仕様かノーマルオープン仕様か、その他これらの仕様に対してどのように信号入力すればよいのかはまさに制御設計者の土俵ではないでしょうか。そう考えると機器制御における制御設計者の管理範囲は非常に広いものとなります。
筆者はこれを誉なことと感じています。「制御の全ては制御設計者の手の中にある」ということは一見あたりまえのことだと感じがちですが、それって凄いことではないでしょうか。制御設計者が機械やプラントに制御という「魂」を入れないと動作しないのです。
4.電磁力応用機器として
以上、一見電気制御とは無関係に思われそうな空圧回路について説明しました。しかしながら圧縮空気を動力源とする機器を思いどおりに動作させようとすると、以外にもコイルを使用した電気制御から始まる知識が必要であることがご理解いただけたと思います。
つまり電磁弁も結局電磁力を利用した電磁継電器などと同じような技術で成り立っている部品であることです。電動機(モーター)やヒーターなどのいかにも電力を使用して動作する機器と比べるとそんなに電気とは関係が深くなさそうな部品ですが、実はすごく密接なのですね。電気電子回路によって一見機械分野の設計範囲となりそうな機器にも精通しているなんて格好良くないですか?
分野を超えた広い意味での制御を構築し、使いこなすことに一役担えるならばとてもありがたいです!
さらに、電磁弁を扱う上で非常に高い確率で触ることになるON/OFFで出力をするセンサーについても記事をまとめました。当記事中の「リミットスイッチ」などは空圧回路を扱う際、どのようなものなのかを知っておいて損はありません。是非ご一読ください。