1.電気の事故
電気エネルギーは他のエネルギーへの変換が容易で自動制御とも相性が抜群です。そのためあらゆる場面で利用され広く普及しています。
そんな電気エネルギーですが、使用を誤ると非常に危ないものになります。電気による事故では建造物に代表される財産の喪失や命を失いかねない事態をも容易に招きます。
そのため扱いは慎重であるべきでかつ、日本国内では諸外国に比して特に厳しい取決めがあり、高いレベルでの知識を有する者による設計や施工,管理であるべきと決められています。そのため日本の電源品質や管理基準は世界最高峰といわれます。ちなみに電気保安の独立した資格である「電気主任技術者」が存在するのは日本のみといわれています。
それでは、電気による事故とはどのようなものでしょうか。皆さんが既にご存知のものもありますでしょうが、代表的な二つに関して改めてその発生条件から説明していきます。
2.短絡による事故
電気の事故のひとつに「短絡」というものがあります。これは通称「ショート」ともよばれるものです。聞いたことある方も多いのではないでしょうか。
その名の通り電気回路をショートカットしてしまう現象です。しかし、どこをどうショートカットするとリスクになるのでしょうか。そしてその時どんな現象が出るのでしょうか。
1)短絡による事故の発生
短絡は二つの極(プラスとマイナス)が電気的負荷を一切経由することなく直接触れ合った場合に起こる現象です。直流でも単相交流(線が2本で構成される交流回路)でも三相交流(線が3本で構成される交流回路)でも二つの極を直接触れ合わせると発生します。
ポイントは負荷が何もいないループ状態をつくるということです。こうなることで電気的ブレーキ役が何もないということになってしまい、とても大きな電流が生じます。
2)短絡事故の特徴
実際に見たことあるという方もおられるかもしれません。
非常に派手な現象で大きめの、またはかなり大きな音とともに激しい光を放ちます(もちろん扱う電圧などが低ければ現象も小規模になります)。このとき実は高い温度も発生しています。この現象をそれのみで「アーク(火花放電)」といいます。
また、短絡による事故発生時は配線に過大な電流が生じています。数百〜数千[A]規模の電流が生じていてもなんら不思議ではありません。そしてこれこそが音や光,アークの発生原因です。
3)短絡での事故による損失
短絡での事故が発生した場合以下のような損失が考えられます。
・高温や火花による火災の発生
・過大な電流による機器破損
・アークによる感電
いずれも甚大な損失が予想されます。特に火災や焼損破損のリスクが高いと考えられます。実は筆者は短絡が元で感電したという実例を見聞きしたことはありません。見たくはありませんが。
ただ、短絡での事故を起こした回路に差し込まれている機器はほぼ確実に機能を失うでしょう。配線も焼けてひどい状態になることが容易に想像できます。
3.漏電
もうひとつある電気の事故は「漏電」といわれるものです。これも字の表すとおり電気が漏れることです。
人間が電気をエネルギーとして利用するとき、配線やスイッチ,負荷機器などを使います。漏電とは、これら電気を通して使うもの以外のところに電気が漏れ出してしまうことをいいます。
では漏電はどのように発生しどんなリスクをもたらすのでしょうか。
1)漏電事故の発生
例えば家庭用の扇風機などの回転機械を例にとると、これらに対してまずコンセントから送られてくるAC100[V]の電気が配線とスイッチを介しモーター内に引き込まれ、モーター内の巻線という回転力を生み出すための回路を通り、再び配線を通りコンセントに戻っていきます。
これが本来のルートとして正常に機能しているならば問題ありません。しかしモーター内の巻線の一部に損傷があり、その結果モーターのケースの金属部分すなわちボディーに内側から線が触れてしまっている場合、モーターのボディー自体の金属部でつながるところ全てに100[V]の電圧がかかります。
この状態がすでに漏電です。本来電気の通るべきではない箇所に通ったり、電圧のかかるべきではない箇所にかかる状態です。先程の例のような機器の内部であろうと途中の配線やスイッチであろうと本来のルートから外れたら漏電です。
2)漏電事故の特徴
漏電は多くの場合目で見て音で聞いてというような際立った特徴が無いということ自体が特徴です。もちろんその規模や状況により、短絡によるトラブル時のような視覚的聴覚的現象が起こることもあります。
しかし本当にこわいのはこの静かに起きる異常事態ではないかと筆者は考えています。以下にその理由を記述します。
3)漏電事故による損失
まずは漏電事故による損失を以下に記載します。
・漏電箇所に触れることによる感電
・漏電火災
上記はいずれも音もなく忍び寄る危険そのものです。特に漏電箇所への接触による感電に関しては正にトラップにかかってしまうようなものです。
極めて気づきにくいうえ、生命への影響が甚大であるというところがこの漏電という現象の恐ろしいところではないでしょうか。
4.電気事故の防止
ここまで、電気を使用する上での事故の最も身近な代表例2つをみてきました。この他にも過電流や過電圧など、細かくは数種類の電気使用における事故があります。
しかし肝心なことはこれらを如何にして回避するかです。そのための方法をいくつか説明します。
1)確実な絶縁
「絶縁」とは電気を遮断することです。文字どおり電気的な「縁」を「絶」ちます。不要な部分に電気が流れないようにするためのものですが、これを確実に施すことで短絡も漏電も防止することが可能となります。
絶縁のための施策や方法はまず、距離を開けることです。空気による絶縁はかなり効果が高く、実際に施工時には配線どうしや配線とケース(ボディー)の距離をとることが義務付けられていることもしばしばあります。
一般的で簡易な施工方法としては「絶縁ビニルテープ」などでむき出しの充電部を覆う方法です。充電部とは電圧がかかっている部分のことで、被覆や接触防止のカバーが無い箇所に対し絶縁体による被覆をつくることで短絡や漏電また、直接的な感電も防止できます。より確実に施工する場合、「自己融着テープ」というものを用いることもあります。
2)専用のターミナルなどの使用
配線の接続箇所は特に電気事故の発生しやすい箇所となります。そのため「電気設備技術基準の解釈」や「内線規程」などの電気法規で接続方法についても厳しく取り決めがされています。配線の接続箇所では可能な限り配線接続用器具の使用をお勧めします。
これらには絶縁物質によるセパレートがなされていたりカバーが付属していたりと、イレギュラーな使い方をしない限り手順に従うだけで安全に接続が可能なようにできています。
3)遮断器の挿入
絶縁処理や接続を正しく施したつもりでも見落としや部品の劣化などによって電気事故が発生する可能性をゼロにするのは至難の業です。
そのような場合に備えたものが漏電遮断器や配線用遮断器です。これらは漏電や短絡が残念ながら発生してしまった場合にいち早く異常を検知し、その回路を遮断(切り離す)し不安全状態から脱出させる能力をもっています。
漏電遮断器は漏電と短絡(過電流)の両方を、配線用遮断器は短絡(過電流)が発生した場合、回路の遮断をしてくれます。
ただし注意すべきは、これらの機器にも能力というものがあり、決められた以上の大きな電流を遮断することはできません。これを「定格遮断電流」といいます。「定格」という言葉は電気の話の中で頻繁に出る「これ以上は壊れますよ」や「これ以上は動作の保証がありませんよ」という使用上の限界値を意味します。選定の際などよく注意しましょう。
また漏電遮断器については漏電時の遮断機能がありますが、原則としては後述のアース線と併用することが確実な漏電遮断のために必要となります。
4)確実なアースを施す
先程の遮断器の話の中で少しだけ出てきました「アース線」について説明します。
皆さんも一度は見かけたことがあるのではないでしょうか。洗濯機や電子レンジからひょろっと伸びてる緑色や緑色と黄色のストライプの線です。
「コレって何の線?」と思われる方も多いかと思います。実はこれ、漏電から人の命を守るとても大切な線なのです。すごいヤツです。別名「接地線」といい、地球すなわち大地につなげることを目的とします。
これを確実に施すことで漏電というトラップの威力を大幅軽減できます。
どういうことなのかを平たくいうと、漏電により人体が受ける影響を肩代わりしてくれるというものです。
確実に接地が施されていると、漏電が起きた時点で漏電電流の大部分は優先的にこの接地線を通り大地へと導かれます。それによりその機器に人が触れても影響が少なくて済むということです。
この接地線の施工には4つの種類があり各々A〜D種という分け方がされています。家庭や職場で日常的に使用される設備機器にはこのうちのD種もしくはC種という接地工事が施されることとなり、その目的は低圧電路における漏電での人体の感電防止と漏電火災の防止にあります。
また、B種接地工事を確実に施すことで高圧が低圧に干渉し混ざってしまう混触という現象の回避と、C種やD種の接地と連携し漏電遮断器を確実に動作させるということが可能となります。
A種接地工事はC種やD種の高圧版です。
5.ご安全に
これまで主に二つの代表的な電気による事故に関する説明をしてきました。
ここに挙げた以外にもいくつかのモードがあり、細かいところでは対策の違いもあります。
いずれにしても想定の範囲を超えた事故というのは悲惨な結果しか生まず誰しもが避けて通りたいものです。その中でも電気における事故は生命に関わるリスクが比して高いものになります。
まずはご自身を、そして一緒に生活や仕事をする大切な人をまもるため正しい判断ができるよう、日々精進が必要であると実感する毎日です!