1.温度が上がらない
この話も筆者が保全マンとしてまだまだまだ駆け出しのころの経験です。
その日も現場からの一報でとある設備の前に駆けつけました。駆けつけた先の設備は「混練機」といい、粉体と高粘度の液体を練り合わせるための機器です。扱う液体の粘度を下げ、よく粉体と触れ合うように熱をかけますがその温度が上がらないというものでした。
熱源はヒータによるもので円筒形の混練機を分割する形でいくつかのヒータが加熱をしています。
そのうち一つの区画のヒータが加熱できていないのではないかとのこと。実際加熱できておらず、温度表示も「OVER」となっていました。
2.ピリッ!!
「(あ〜、温度センサが断線でもしたか…)」
筆者はそう考え、同時に何気なく混練機本体が据え付けられている架台に手を触れました。
その瞬間、『ピリッ…』
「(???)」
「(今、感電した?僅かだったけど違和感あったぞ…?でもなんで他の人たちは何も感じないんだ?)」
それ以降筆者は直接設備に触れることの無いよう保護手袋を装備し更に、渋る現場班長を説得し念の為設備電源を遮断しました。
そして本体のジャケットを開けてみました。
3.えっ?そんなバカな…
ジャケットをめくるとヒータ線とヒータへの電源線,および熱電対配線が見えました。
問題となる箇所の配線を追いかけていきます。
「(そうそう、ヒータの電源線から直接熱電対に繋いで…っておいっ!!なんてことしてんだ!!)」
そうです。ヒータの電源に熱電対が繋がれていたのです。案の定熱電対の片側が途中で焼け切れており、おそらくそれがジャケットに触れていたのでしょう。配線用遮断器のトリップは無かったのでしょうか。
幸いジャケット内は断熱材などがあり、おそらく金属部分にピッタリとはくっついておらず、また切れた線の熱電対側も電源側も焦げ目があったことから筆者の感電の程度も低かったのでしょう。
ただ、それは運が良かっただけで、一歩間違えれば200[V]の電撃をまともに受けていた可能性があります。
今でもその時の憤りを覚えてます。
「(いったいいつ誰がこんないい加減な配線したんだ!そもそも立ち上げのときブレーカが落ちたんじゃないのか?分からないならなんで一言連絡も質問もしないんだ!?)」
そんなことで頭がいっぱいになっていました。
4.ついに!
復旧のための部品などを探していたところ、どうやら2〜3ヶ月前のメンテナンス時に配線がなされていたことやそれ以降温度表示が無かったことなどを聞き、ついに筆者も黙っていられなくなってしまいました。
結局冷静さを欠いた筆者はその場で班長を呼びつけ、「なんてことをしてくれたんだ」と一方的に責めたてました。
当然、何がいけなかったのかなんて伝わるわけがありません。班長とは単なる言い合いになってしまい、こちらは「機械や電気を舐めてもらっては困る。」ということを、あちらは「お前達の手を煩わせまいとしてやったこと。少しはその気遣いも理解しろ。」ということを言い合うのみに終始してしまいました。
結局代わりの熱電対なども見つからないことから復旧作業は翌日へ持ち越しとなったのですが、明日も互いに顔を合わせないとならないと思うと気が重い状態でした。
明けてその日のうちに代替部品も揃いなんとか復旧は果たしたものの釈然とせぬまま動作確認だけ済ませ現場を離れました。
5.学んだこと
この事例は、人為的ミスの中でもケガなどなかったもののかなり危ない領域の類だと考えます。漏電遮断器や配線用遮断器などがあるから無いからという次元ではなく、そのことを知らない人間が勘であれこれ触ること自体が危ないということです。
ただそんなリスキーな事例だったからこそ大きなことをいくつも学びました。
先ずは上記のとおり、無知のまま作業にあたることが如何に危ないかということ。これは電気に限った話ではありません。
次になぜ皆が感電しなかったかについてですがひとつは先程も述べたように断熱材や配線の焦げによる金属部分への導通不足によるものと、作業者全員が目的は別でありながら皆革手袋(安全靴などは全員常備)を着用していたことでした。その中で筆者だけが架台に素手で触れたことから発覚したということです。
やはり電気に限った話ではなく「保護具」の必要性が浮彫りになりました。やはり命をまもる大切な装備であると実感させられました。
次に、「接地」の大切さです。当該設備ではこれが不充分であり、この接地さえしっかりと施工していたならば、感度電流にもよりますが漏電遮断器が先に反応していたかもしれません。少なくとも感電の程度を大幅に軽減できます。
そして、最後は「冷静であること」の大切さです。これに関しては、今起きていることを周知し理解を促し人的抵抗無く進捗させるにあたって常に必須条件ではないかと考えます。
冷静であることに起因する説明のわかりやすさや受入れやすさは、トラブルを未然に防ぎ且つトラブルに遭遇したとしても二次的トラブルや軋轢の発生をかなり軽減してくれると考えます。
当時は感情が昂った筆者ですがこの事例に多くの大事なことを学びました。
特に以下の言葉は誰から聞いたかも忘れましたが、強烈に脳内に焼き付いています。
「怒っているのと怒っているように見せるのとでは感情の制御レベルにおいて雲泥の差がある。」
素晴らしい教えだと思います。が、筆者はいまだこんな境地には立てていません。
ですが、電気エネルギーや機械をコントロールしようとすることを生業とするならば、自身の感情はもっとうまくコントロールできるようになりたいものですね。