電気工事と漏電

電力と制御の体験記
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1.電源ひき替え工事

その工事は、これまで遊休設備としてある建屋内に据えられていた大きな空調設備を撤去して別設備を据え付けるために始まりました。

電源供給として使用していた古く太い配線を次に据えられる設備の容量に合わせ漏電遮断器とともに少し小さく細くする計画でした。とはいえそれでも60[㎟]のCVTというケーブルで手狭な工場建屋内を引き廻すのには苦労する太さでした。CVTケーブルとは「架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル」というケーブルの略称で、ビニルシースの最外皮とその内側に架橋ポリエチレンという素材の絶縁物質を備えたケーブルです。

ケーブルの曲げ半径が規定以下にならないように、経路を考えるだけでも一苦労であった記憶があります。現場調査時に工事士さんも思わず「厳しいなぁ…」とつぶやくほど空間的な制限を受けていました。

それでも最善の経路を割り出し、電源遮断と投入の段取りもとりつけて工事は始まりました。

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2.順調に進む工事

画像はイメージです。実際の工事とは関係ありません。

配線経路の入念な調査や該当系統の充分な停電時間確保のおかげで工事のやりにくさとはうらはらに順調に作業は進んでいきました。

途中、工事士さんも「たっぷり時間をとってくれたから落ち着いて作業できますよ」というくらい時間的に余裕のある工事のようです。筆者も要所要所で確認に入りましたが、そこはさすが大ベテランの工事士さんです。ラックや可とう電線管をうまく利用し、実に丁寧に作業を進めていってくれています。

熟練の腕としっかり計画された作業段取りで時間が余る形で作業自体は終了しました。

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3.検査も合格

画像はイメージです。実際の工事とは関係ありません。

配管等の接地,接続部の抵抗(配線の抵抗)及び絶縁抵抗などいくつかのチェック項目でも無事問題ない判定となりほっと一息、ひと段落となりました。

いよいよ電圧を印加し、供給部末端までの電圧や遮断器の動作などの確認に入っていきました。

ここでもしっかり各相の200[V]が確認でき、遮断器動作においてもトリップに問題はありませんでした。

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4.いったん電源遮断

負荷となる設備の納入は三日ほど後のことであり、いたずらに電源供給を続けておく必要もないので、その日は遮断器にて電源を断ちしばらくそのままおいておくこととなりました。電源の再投入まで実質一週間ほど間が空きました。

新設となる設備の工事も着々と進行し、翌日の電源投入とその後の調整を待つところまで作業は進み、いよいよ明日は起動するというところでその日の工事は終了しました。

設備側の担当者から「電源の用意は問題無しですか?」と訊ねられ筆者は「問題無いですよ。チェックもクリアしていますし、明日は朝一から電源入れますけどいいですか?」と回答及び質問し、再び設備担当から「どうぞ、お願いします。」と回答を得ました。

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5.いざ電源投入

その日朝から電源投入に関する準備をし、念のため周囲に不用意に人が近づかないようにアナウンスを済ませました。

そしていざ電源投入です!

「ババンッッ!!!!!」

「!?!?!?!?!?…えっ!?」

大きめの音とともに今回施工した漏電遮断器がトリップしました。漏電表示もでています。筆者の頭の中は一瞬真っ白になりました。現場周辺も音にびっくりしてざわついています。しかし、思考停止している場合ではありません。

「(先週電源投入したときは問題なかったのに今回なんでいきなり漏電した?簡単に液体が触れるような箇所は経路上に無いぞ…たしか負荷設備直前までは接続箇所も…あ、まさか!)」

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6.焦げた接続箱

筆者は唯一思い浮かぶ場所へ行きました。

「(電源末端と負荷設備側に問題が無いのならば原因はあそこしかない!)」

負荷設備の問題と電源供給の末端でのつなぎこみによる問題も否定できないことを頭に置きながら、今回工事した電源経路内で唯一接続箱を使用した場所へ向かいました。そして一目でわかる異常が目に飛び込んできました。

接続箱の一部が焦げています。

「(やはりここだったか。)」

待機していた工事士さんを現地に呼んで、イレギュラーによる感電などながないことを確認し接続箱にアクセスしました。その結果、下の図のようなことが起こっていました。

接続箱内での接続部では、60[㎟]という決して細いとは言えないケーブルの曲げた箇所が戻ろうとする力によって、よりにもよって箱の折り返し部分のエッジに当たっていました。さらにそのまま蓋を閉じたことにより挟み込みも起こっていたのです。「ババンッッ!!!!!」という音に関しても漏電電流が大きかったことが起因し、まるで短絡のような現象となったのです。

一週間前の検査時はまだエッジが食い込んでいなかっただけで時間をかけて構造的にゆっくりと絶縁が破壊されていったということです。電気において時限的に不具合が発現することなど初めて経験したことですので唖然となりました。

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7.なんとか復旧

工事士さんたちは復旧の作業をしながら皆何度も「すみません…」を口にしていましたが、筆者としても「こちらこそ確認不足でした…」としか言いようがありませんでした。

ベテランの工事士さんもこのような経験は筆者同様初めてだそうです。

そしてなんとか再施工し復旧までこぎつけました。もちろん今回は接続部の絶縁もしつこいくらいに施し箱内の曲げにも気を使い、さらに蓋での挟み込みにも注意して施工しました。

結果無事復旧は完了し設備も稼働前調整に入ることができました。

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8.ひとつひとつを丁寧に

今回なぜこのようなことが起こったのか、工事においての準備不足はなかったと思われます。経路や時間の確保など充分に計画されていました。

では作業においてはどうでしょう。工事士さんからは明確に「見くびっていた」ことや「簡単に考えていた」という旨の言葉が出てきました。時間はかかる工事だが作業自体に難しさは無く、問題の時間においても充分に確保されており間に合わないことは考えられないということから油断が生まれていたのだと考えます。

筆者も「難しい工事ではない」ことから立ち合い中に工事士さんへ注意を促すことが少なかったと反省しています。一言「接続部では確かな絶縁と配線の収め方に注意してほしい」ことを伝えておけば免れていた可能性が高いです。

以上、電気工事がいかに慎重に進めるべきものであるかがわかる体験談です。この日以降筆者は特に接続部での施工に慎重になりました。