1.電流を知る(電流計測)
オームの法則の記事で電気には基本の三要素が存在するということを説明しました。そして「電流」はその三要素のひとつで、移動する電子の量が大きく関わることを述べています。
「電気」とは電子の移動により得られるエネルギーであることからも電流が電気エネルギーと密接に関わるファクターであることはいうまでもありません。
電気で動作する一般的な機器がどれくらいのエネルギーを消費しているのか、またその消費状態は正常なのか異常なのかはほとんどの場合、電圧と電流により決定します。
これらを知るためにあるもののうち、電流を測り取るのが電流計です。ただし通常、電流計は多くの電流を通すことができません。筆者がよく使用するものでも最大で1[A]や5[A]の電流を受け取るものとなります。
2.CTで変換
ではどうやって5[A]などより大きな電流を計測するのでしょうか。
この疑問を解消するのが「変流器」となります。別名「CT(current transformer)」とよばれるこの機器は先に解説している変圧器同様、交流回路における変換を可能とします。
もちろん、直流を変換できる変流器もありますが多少構造が複雑化します(ホール素子の利用など)ので、ここではあくまで交流での使用のものに限った話をします。
とはいえ、一般的にCTや変流器という場合は交流回路上で使用するものを指し、利用頻度もこちらの方がかなり多いです。直流の大電流を利用する機器が限られているのですね(電気鉄道や一部電気炉など)。
話を交流回路における変流器に戻します。
3.変流器の居場所
変流器の据付けられている場所は様々ですが、全て電路の途中に取付けられることとなります。ただし、計測を目的としますので電流値を測り取りたい系統の電路に差し込まれるように取付けられることとなります。
遮断器の直下に取付けられることがほとんどですので見た目に「あれがそうかな?」と予想できます。
4.変流器の目的
変流器はその目的のほとんどが電流計測のための変換です。変圧器のときは「計器用」ではない限り電力を使用可能とするための変換(変圧)が目的でしたが、変流器での変換は計測することで電力消費(量)の計上に利用したり異常の検知に利用したりと、直接的な電力利用とは異なります。計測(検出)のための機器といっても過言ではないでしょう。
ちなみに、先に述べたように変圧の場合でも「計器用変圧器」ならばその目的は計測になります。このように計測を目的とした変圧器や変流器をまとめて「計器用変成器」といいます。
5.原理
変流の原理について解説します。交流電源下での利用になりますので、これまでの記事や自身で学習されている人にとっては大方予想がつくかもしれませんが以下に解説していきます。
1)電磁誘導作用
変流器も電磁誘導作用を利用して変流します。ことごとく変圧器と同じですね。しかしながら違いはもちろん存在します。
変流器は電流変換をするため一次側に発生する磁束と垂直に交わる(鎖交)ように通電させられます。具体的一例として貫通形のものでは環状鉄芯の真ん中を通るように設置されます。そして変流器一次側に加えられるのは電圧ではなく電流であるということになります。
また、変流器の一次側の接続についてですが、電源の端子と変流器一次側の端子を対にして接続をしてはいません。というよりしてはいけません。あくまで一線に差し込むように接続をしています。この接続方法により、前述の「一次側に加えられるのは電圧ではなく電流である」ということになります。
ここが変流器の最たる特徴であり大きな注意点(後述します)となります。
2)巻数比
巻数比も降圧用の変圧器とは異なります。というよりむしろ逆となります。
通常、電流計で測りとることのできない大きな電流を計測可能な小さなものに変換しますので一次側の巻数が二次側の巻数より多くなります。そしてその巻数と電流の関係は以下のようになります。
N1I1 = N2I2
上の式は「一次側の巻線数と電流値の積」は「二次側の巻線数と電流値の積」に等しくなるということを意味します。もしも「どっちがどっち?」となってわからなくても、変流器の目的をしっかりと把握していれば自ずとこの式は出てくると思います。そして、この巻数の違いによる一次側と二次側での電流の発生比率を「変流比」または「CT比」といいます。
6.二次側の開放厳禁!
ここで、変流器の取扱い上の注意を記載しておきます。安全に関わるとても大切なことですのでしっかりと理解してください。
1)磁気飽和
このサイトでも既に何度か出てきている「磁気飽和」。実はけっこう危険な状態のことを指します。磁気飽和とは鉄芯などのコアとよばれる部分に電磁誘導作用により発生した「磁束(磁力線の束)」をもうこれ以上増やすことができない限界値に達してしまった状態のことを指します。
変流器二次側を開放つまり何も繋がない状態はこの磁気飽和を発生させます。その結果鉄芯は異常加熱の危険にさらされることとなります。
2)二次側異常電圧
更に変流器二次側を開放することでおこる現象がありますが、これにもやはり磁気飽和が関与します。「磁界の強さと磁束密度の関係」という発生している磁力の状態を表現するグラフがありますが、これを「ヒステリシス曲線」や「B-H曲線」といいます。
この曲線が示しているのは、ある一定以上から磁界の強さがどれだけ上がろうとも磁束密度は上がらない磁気飽和のことと、磁気飽和状態から磁界の強さを下げて(上げて)いっても磁束密度は比例的には変化せず、ある磁界の強さを境に磁束密度が一気に減る(増える)ことを表しています。
この一気に減ったり増えたりすることは電磁誘導作用においては非常に大きな意味を持ちます。
これを踏まえた上で二次側を開放することがどういう作用をもたらすのかを解説します。
①二次側が閉回路
先ず二次側が開放されていない場合です。
一次側電流により励磁された鉄芯には磁束が生じます。発生した磁束は二次側コイルの電磁誘導作用により反発する起電力を生み出しそのコイルを含む二次側回路に電流を生じさせることで、一次側で生じた磁束を打ち消し、結果磁気飽和は発生しないことになります。
また、二次側での発生電流は一次側との巻数比で決定してきますので短絡したとしても過電流の発生はありません。つまり変流器としての役目が果たされるということです。
②二次側開放
次に二次側を開放した場合は①のときと二次側での動きが大きく異なります。
一次側電流により発生する磁界で鉄芯内に磁束が生じます。そして二次側コイルに反発する誘導起電力が発生します。ここまでは①のときと同じです。しかし、二次側は閉回路ではなく開放されているため電流は生じません。
二次側コイル両端(二次側開放端)に電位差はあれど電流は生じないことから一次側で発生した磁束を打ち消すものは何も無いこととなり磁気飽和がおきます。
さらに一次側がいくら正弦波交流の動きをしたとしても二次側ではヒステリシス曲線が示す動きにならい、磁束の通る方向は短時間で一気に向きを入れ替えるということになります。
電磁誘導では磁束や電流の時間あたりの変化が大きければ大きいほど誘導起電力がおおきくなります。
これら一連の流れにより二次側コイル開放端では異常な高電圧が発生することになり非常に危険な状態となります。
7.扱いはシビアでも電気計測には必須
変流器では二次側を開放して使用することが「磁気飽和による鉄芯異常加熱」と「二次側コイルでの異常電圧の発生」を招くということを説明しました。取扱いがとてもシビアですね。
しかし、解ってさえいれば計測に役立つとても有効かつ不可欠な部品であることはいうまでもありません。「電流は負荷に電圧を印加した結果生じる電子の移動である」ということに関してこのサイトでも何度か説明しています。つまりこの電流値が電気エネルギーのタイムリーな状態を反映しているということです。非常に大事なファクターですね。これを考えると、電気を扱う上では絶対に使いこなしたい機器ということがわかります。気難しい機器のように感じますが、正しくさえ扱えば電気保安の非常に強い味方になってくれます。
以上変流器の解説でした。