1.危険な組み合わせ
皆さんは「電気」という単語と「炎」や「火」という単語を同時に見たり聞いたりしたときにどのようなイメージが湧き上がるでしょうか。
日々「安全」をメインテーマにした仕事をされている人は「電気火災」や「短絡事故」などがまずとりあげられるイメージではないでしょうか。
上記はいずれも電気的な異常をもとに火災や激しい火花を発生する最悪の事象となります。
ですが、「電気」と「炎」の間にはこのほかにも危険な関係があります。今回はこのニ者の関係性について説明をしていきます。
2.「炎」のなかを「電気」が通る
見出しをみて「えっ!?」と思われた人もいるのではないでしょうか。
そうなのです。実は「炎」は「電気」を通してしまう性質をもっているのです。なぜなのでしょう。その理由についてゆっくりみていきましょう。
1)「電気(エネルギー)」とは(おさらい)
まずは電気において、とても基本的な説明をします。
「電気(エネルギー)」とは一体何者なのか。これについての説明を電気エネルギーの正体の記事で説明していますが、端的にいうとそれは「電子の移動」ということでした。
電気エネルギーを利用するためには、まず原子核の拘束を受けていない、もしくは拘束のゆるい「自由電子」というものが存在するかそのように誘導する必要があります。そのうえで更に陽極(+極)と陰極(-極)を、自由電子の存在する物質に繋ぎ込み、移動を促すことで電気エネルギーを取り出すことが可能となります。
上記からわかるとおり電気エネルギーの発生には「自由電子」の存在が必須となります。
2)燃焼(火炎の発生)
次に燃焼という現象をみてみます。物質が燃えるという事象では一体どのようなことが起きているのでしょうか。
燃焼を筆者の言葉で表現します。
「激しく光と熱を放出しながら酸素と結合する化学反応」
本当はもっとピッタリの言葉があるのかもしれませんが的外れではないと考えます。いずれにしても燃焼は酸化反応のひとつであることは間違いありません。
有名な燃焼を表す化学反応式を二つほど以下に記載します。義務教育の範囲内ですので誰もが目にしたことがあるのではないでしょうか。
まずは水素の燃焼に関する化学反応式です。2分子のH2と1分子のO2が結合することにより2分子のH2Oが生成されています。つまり水素が燃焼すると水ができるということです。
次にメタンの燃焼に関する化学反応式です。1分子のCH4と2分子のO2が結合することにより1分子のCO2と2分子のH2Oが生成されています。メタンの燃焼で二酸化炭素と水ができるということです。
上記の燃焼における化学反応をの結果、「共有結合」という反応メカニズムで別の分子ができています。
ここで「共有結合」という単語が登場しましたが、一体何が何を「共有」するのでしょうか。その答えとしては、「各原子がお互いの原子間で電子を共有する」ということになります。
ということは、燃焼という化学反応中は電気エネルギーの正体である電子がやり取りされているということになります。そしてそれはまさに反応が起こっている部分である火炎の中で成されていることとなります。
3)だから炎は電気を通す
上記1)と2)の説明ですでにピンとこられた人も多いのではないでしょうか。
火炎が電気を通す理由を簡単にまとめると以下のとおりになります。
①電気(エネルギー)は電子の移動によって発生する。
②燃焼中の火炎の中では電子のやり取りが生じている。
①と②が炎が電気を通す理由となりますが、もちろん電気導体として利用される銅やアルミほど通しやすいわけではありません。
4)負荷状態で断路器(ディスコン)を遮断してはいけない理由
電気と炎の相性の話から少しそれますが、受変電設備内に接続されている機器で「断路器」というものがあります。「ディスコン」などともよばれ負荷状態の電路を開放することを禁止されている機器です。使用目的は点検時や改造時などで該当の電気工作物を電路から切り離すことにあります。
では、もしも負荷状態でこの断路器を開放してしまったらどうなるのでしょう。結果としては、流れ続けようとする電気の性質により高確率でアーク放電という現象が発生し危険な状態に陥ります。アーク放電は非常に大きな規模の火花放電と考えてもらって差支えはありません。このアーク放電によるリスクの発生は断路器が「消弧」というアーク打消しの能力を持っていないことに起因します。
このアーク放電にも当然のことながら電子の移動がおこっています。強力な放電現象と火花の連続発生による通電状態かつ遮断不可能な状態が非常に危険であることはだれの目からみても明らかです。断路器の負荷状態解放でおこしてしまったアークはもはや制御できません。もしこのアークが隣の相へまたがったら…その先は短絡一択です。しかも高圧の…です。
さらに悲惨なことはこのアークのとび先が人間だったとしたら…あまり考えたくないですね。
2.電気火災はやっかい
電気と炎の関係を語るうえで外せないのは「電気火災」です。
電気火災は火災の中でも対処法が限られており、処置を間違えると被害が拡大してしまいやすいものです。なぜそのようなことになっているのかについて説明をします。
1)着火源(火種)
燃焼に必要な要素は三つありこれらの条件が揃わない限り、燃焼反応は起こりえません。以下にその三つを記載します。
①可燃物
②支燃物
③着火源
上記を簡単に説明します。①の可燃物は酸素と結合可能な物質で、その中でも燃焼という光と発熱を伴う反応が可能なものをいいます。鉄や銅など酸素と反応はするものの反応の速度が遅く、光や熱を発さない物質は可燃物とはいいません。②の支然物は酸素のことをいいます。③の着火源は燃焼を引き起こすきっかけとなりうる火花や熱をいいます。
電気の事故を発端とする火災で電源の供給が継続してしまっている場合、着火源となりうるエネルギーが延々と供給され続けるということになります。電源を断たない限り危険な状態はずっと続きます。
2)いきなり水をかけてはいけない
電気の事故を発端とする火災の場合、消火のためとしてに水を使うのは愚行となります。
発火の原因は電気事故でありその電気に水をかけるということは火傷の危険に感電の危険を上乗せすることとなります。絶対に水をかけてはいけません。
3)まずは電源遮断!
電気火災であるならばなにより真っ先に電源を断つということが最優先です。ブレーカーなどの遮断器類が落ちている可能性もありますが、可能な限り上位の遮断器をOFFにするのが良いです。ですが、消防用設備の電源も併設されている場合はなお注意が必要です。電源を断って、いざポンプの出番となっても起動できないようなことにはならないように行動することも大切です。
4)消火器の使用
目の前で炎があがっており、それが電気事故を発端とするものであると判断できたならば、何より電源の遮断が優先です。そして次に消火器の使用を考えてください。
炎がまだ部屋の一角であるような規模でならば消火器を使った初期消化で対応できる可能性があります。迷わず消火器を使用しましょう。消火器を使用した場合、消火後の粉末の処理や補填に関する手続きなどが頭によぎるかもしれません。ですが目の前の炎にそのような事情は関係ありません。躊躇している間にも次々に延焼していきます。予想外の炎を放置し事態の収束を待ったとして、さらに燃え広がることはあっても勝手に元に戻ることは決してありません。であるならば一秒でもはやく消火することが何より先決です。
なお、消火器の使用には簡単ですが手順があります。これについては会社や学校などの組織では必ず防災訓練の一環として実演と講義があるはずですので、いざというときに慌てて消火器をまともに扱えないようなことの無いように真剣に聴いておきましょう。
3.逆手に取った技術
ここまで、電気と炎に関するその相性と危険性について説明しました。電気事故による火災の消火の難しさはよく語られることがありますし電気と水の危険についても広く知られていることですが、火炎の中を電気が通るという事実についてこれを初めて知ったという人にはインパクトが大きかったのではないでしょうか。
ですが人間もしたたかであり、この電気と炎の相性を逆手にとって安全のための技術として取り入れてしまっています。これについて説明します。
1)バーナの炎は消えていないか
炎を使用した機器や設備では、炎が消えてしまっていないかを監視する必要があります。なぜ消えてしまっていないかを監視する必要があるのでしょうか。この理由に関しては次の項目で説明しますが安全上これはとても大切なことです。
家庭用ではストーブやファンヒータなど、業務用(工業用)では燃焼炉や乾燥炉などバーナを用いる機器設備では「フレームロッド」という火炎検知部品が装備されていることがあります。このフレームロッドは電気が火炎の中を通るという危険な事実を逆手にとって安全を管理するというものです。
非常にわかりやすい機器です。バーナの火炎が出る位置にロッドをセットしておき電極としての電源を接続して、そのうえでここに生じる電流を検出器で検出するというものです。こうすることで火炎があるときはロッドを通じて電流が検出され、火炎が無いときは電流が検出されないという違いが発生します。わかりやすい機器ですがこの事実を発見し開発した人には敬意をはらいます。
2)火炎消失(失火)と危険性
加温のためにバーナ等を使用するうえで火炎の消失がなぜ危険なのでしょうか。炎が消えているのですから特に問題は無いように思えますが実は意図せぬ火炎の消失(失火)は非常に危険な状態です。
理由は簡単です。バーナ等の燃焼機器が火炎を生じさせるうごきをしているにも関わらず火炎が発生していない状態は可燃性ガスなどの燃料を垂れ流しているということになるからです。失火の原因は主に酸素とのバランスが崩れたことにあり、特にこれまで順調に燃焼を続けていた状態での失火であれば「酸素不足」が原因のひとつとして挙げられるのではないでしょうか。この状態で再着火が起きた場合、爆発的な燃焼反応がおこる可能性が極めて高いです。
使用しているバーナが失火したもののみでありかつ燃焼初期の常温に近い雰囲気ならば、即座に燃焼の停止措置と換気を行えば事故につながる可能性は低いですが、失火したバーナの他に複数のバーナを使用しかつ温度が常温より高い状態であればその危険度ははるかに高くなります。
なお、燃焼炉などにおいて複数バーナ使用状態で失火したバーナ以外は燃焼の継続中であり、さらに数百度の温度域で突然失火をした場合、また炉扉の解放や大量の酸素の追加供給があった場合は「バックドラフト現象」という爆発的燃焼が発生します。先にも説明した現象です。非常に危険な現象でありこれにより被害の拡大やケガまたは命の危険にさらされることも珍しくありません。
フレームロッドはこの意図せぬ火炎の消失を監視し、燃焼動作の停止や警報に役立てられています。燃焼機器や燃焼設備には絶対に必要な機能ですね。なお、火炎の監視はフレームロッドのみではなく「フレームアイ」「UVチューブ」「ウルトラビジョン」などとよばれる火炎の発生する紫外線や赤外線などを検出するセンサーもあります。
4.危険を知れば対策が可能
今回は電気と炎の相性からくる危険性について説明をしましたが、それを逆手にとって安全のために役立てているという驚くべき事実にも触れました。これから学べることは「なにがどう危険なのかを知ることができれば、予防するための対策をとることが可能である」ということです。もちろん全ての事象に当てはまるわけではないかもしれませんし、対策をとったとしても100[%]大丈夫というわけでもありません。ですが、危険な事象のメカニズムを正確にとらえ的確な措置としてとられた対策は事故の可能性を大幅に低下させます。まさに「敵を知り我を知れば百戦危うからず」です。
筆者もこれからも技術者として、なにがどのようになると危険を招くのかについては特に真剣に学び取り、極限まで先回りをし対策をしていくことを肝に銘じて行動します。