1.交流回路における電気の流れにくさ
電気における三要素についておそらく最もメジャーな法則として「オームの法則」というものがあります。これについては以前説明をしましたが少しだけおさらいすると、電気の三要素には「電圧」「電流」「抵抗」というものがあり各々を「E[V]」「I[A]」「R[Ω]」とするとき「E=IR[V]」という式が成立するという法則です。このとき、結果的に生じる電流の大きさを決定するのは電圧の高さと抵抗による電気の流れにくさです。
ところが交流回路においてはこの電気の流れにくさを決定付ける要因がもう二つ存在します。それが「コイル」と「コンデンサ」です。
2.抵抗とコイルとコンデンサ
交流回路における電気の流れにくさを決定する要因として、「抵抗」に加え「コイル」と「コンデンサ」があると述べましたが、これらは抵抗に比べて何がどう違うのでしょうか。そして、これらは交流回路における電気の流れにくさを決定付ける要因ということですが、直流回路においてはどのように作用するのでしょうか。まずはここから説明します。
3.直流回路におけるコイルとコンデンサ
直流回路におけるコイルとコンデンサは抵抗とは全く違った振舞いをします。さらにこのコイルとコンデンサは互いに逆の作用をもたらします。
1)直流回路でのコイル
下図は直流回路でのコイルの振舞いがよくわかるように結線された試験回路のようなものです。
この回路でSW1がONになった瞬間、コイルは電流の発生を阻害するようにはたらき、以降時間の経過と共にその作用が弱まりそして通常の配線と同じように電流を通すことになります。
次にこの状態から瞬時にSW2へと切替えると、今度は減っていこうとする電流を阻害する作用がはたらきます。阻害する作用はいずれも電圧としてあらわれます。また、SW2への切替時はSW1投入時に比べ大きな電流の変化となるので現れる電圧も大きなものとなります。
上記の様子を電圧と電流に着目して表したのが以下のグラフとなります。
なお、このコイルによる阻害作用を「電磁誘導作用」といい、電磁誘導であらわれる電圧を誘導起電力といいます。
先程も少し触れましたが、この磁界はコイル内を通る電流の変化量に応じてその強さと向きが変わります。比較的に長い時間で少しだけしか電流に変化がない場合は小さな電磁誘導作用が、ごく短い時間で極端に電流の変化がある場合は大きな電磁誘導作用がはたらきます。
ということは裏を返せば、電流が生じていてもその大きさに変化が無ければ電磁誘導による阻害現象は発生しないということになります。
これが意味するところは直流回路において電圧を印加した後、充分に時間が経過し電流の変化を終えた状態では、コイルは配線として存在するのみとなるということです。正確にはコイル抵抗というものがありますので完全に配線と同じというわけではありません。このことに関しては少し注意が必要ですが、ひとまずはコイルが単なる配線と化すと考えて差し支えありません。
2)直流回路でのコンデンサ
コンデンサには電源に接続した場合電荷をためる「充電」というはたらきとためた電荷を解き放つ「放電」という作用があります。電荷をためるというのはマイナスの電荷をもつ電子とプラスの電荷をとなる正孔(電子のような粒子ではありません)を分けてしまうということです。そしてどれくらいの電子と正孔を分けてためておけるかという能力のことを「静電容量」といいます。
下図は直流回路でのコンデンサの振舞いがよくわかるように結線された試験回路のようなものです。
図のように直流回路にコンデンサが挿入されている場合、SW1がONになった瞬間はコンデンサ内でも電荷の移動がおこりますので、見かけ上ではまるでコンデンサなど無いかのような電気の流れ方となります。
しかし時間の経過と共にコンデンサ内に電荷がたまってくると電気は流れにくくなり同時にコンデンサの両極間に電位差があらわれるようになります。ここまでの状態はコンデンサへの充電となります。
次にこの状態からSW2へと切替えると、今度はたまった電荷がこれまで流入していた方向とは逆方向に開放されます。これがコンデンサの放電となります。
上記の様子を表したのが以下のグラフとなります。
コンデンサに一方向の一定電圧が印加され続け、充電された電荷が静電容量に達した場合コンデンサはこれ以上電荷を抱え込めなくなるので電気の流れが断たれることとなります。この状態は接点の開放と同じ状態であり、ここに直列に接続されている負荷には電力の供給は無くなるということになります。
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4.交流回路でのコイルとコンデンサ
交流回路におけるコイルとコンデンサは抵抗と少しだけ似た部分がありますが、その詳細においてはやはり全く違った振舞いをします。そして直流回路のときと同様にコイルとコンデンサは互いに逆の作用をもたらします。
以降の説明では計算式が多く登場します。かなり複雑な計算ではありますが、ひとつひとつ丁寧に説明しますので先を焦らずゆっくりと理解していくことが望ましいです。
数式の読込みにおいてうまく表示できていない場合のために画像も用意しています。クリックやタップで拡大できますのでご活用ください。
1)交流回路でのコイル
交流回路におけるコイルでは直流回路の項目で説明した電磁誘導による電流の阻害現象が連続で発生するということになります。交流回路は時々刻々電流の大きさが変化しその向きも入替ります。電磁誘導は電流の変化に応じて発生する現象なので、周期的に変化を続ける回路上では常に阻害する作用が発生するということになります。
この作用により、毎周期電圧の変化に対して電流の発生が立ち遅れることになりますが、これが力率の遅れ要因となります。
なお、電磁誘導により連続的に発生するこの現象自体を「誘導性リアクタンス」といいます。記号は「XL」で表され単位は抵抗と同じ「Ω(オーム)」です。
「XL[Ω]」の算出は以下の計算式からとなります。
$X_L=ωL$ [Ω]
このとき「L」を「インダクタンス」といい、単位が「H(ヘンリー)」となります。インダクタンスはコイルの巻数や電流および磁束の大きさにより決定されます。
2)交流回路でのコンデンサ
交流回路におけるコンデンサでは直流回路の項目で説明した充放電が連続で発生するということになります。コイルのときと同様に交流回路では時々刻々電流の大きさが変化しその向きも入替ります。
ある方向から電圧が印加され始めると充電が開始されます。電圧がピークに達したとき、つまり瞬間的に電圧の変化量が「0」となったときに充電も放電も起こらずコンデンサがこれまでためた電荷を保持したまま電流値が「0」になります。その後電圧(の絶対値)が下がり始めるとにそれまでたまった電荷が反発するように放電され始めます。これによりコンデンサには見かけ上の電流が生じます。さらに先程とは逆の方向に電圧がかかり始めると、これまでと方向のみが逆の同じ現象が起こります。
上記を踏まえると、周期的に変化を続ける回路上にコンデンサが挿入されている場合、常に充放電が発生するということになるのです。この作用により、毎周期電圧の変化に対してコンデンサによる電荷の移動が先行させられることになりますが、これが力率の進み要因となります。
なお、充放電により連続的に発生するこの現象自体を「容量性リアクタンス」といいます。記号は「XC」で表され単位は抵抗と同じ「Ω(オーム)」です。
「XC[Ω]」の算出は以下の計算式からとなります。
$X_C=\frac{1}{ωC}$ [Ω]
このとき「C」を「キャパシタンス」といい、単位が「F(ファラド)」となります。キャパシタンスはコンデンサ極板の面積や極板間の距離により決定されます。
3)「ω」は何者?
ここまでで何気なくリアクタンスの式に出てきていた「ω」。これは一体何者なのでしょうか。これについて以下に説明します。
$ω=2πf$ [rad/s]
上の式は「角速度」を表しています。記号は「ω(オメガ)」で単位は弧度法での角度単位である「rad(ラジアン)」を時間単位の「s」で除した「rad/s(ラジアン毎秒またはラジアンパー秒)」となります。
πはご存知かもしれませんが、円周率の3.1415…となります。ただし、このπは180°という意味もあり、2π[rad]は360°という意味にもなります。
さらに、記号「f」は「周波数」を意味します。秒間何回周期動作を繰り返すか、言い換えると秒間何回転するかということになります。単位は「Hz(ヘルツ)」であり回転数表記なら「s-1(毎秒またはパー秒)」となります。角速度において弧度法表記の角度を時間(秒)で除する根拠がここにあります。
このことから先に説明しましたリアクタンスの式が以下のとおりに書き換えることが可能となります。
コイルによるリアクタンス、つまり誘導性リアクタンスの式は次のようになります。
$X_L=2πfL$ [Ω]
コンデンサによるリアクタンス、つまり容量性リアクタンスの式は次のようになります。
$X_C=\frac{1}{2πfC}$ [Ω]
5.インピーダンス
ここまで、コイルとコンデンサによる直流回路での影響と交流回路での影響について説明しましたが、特に交流回路ではコイルやコンデンサが電気の流れにくさとして作用するということでした。
交流回路において、コイルやコンデンサにより生じるリアクタンスと直交流いずれにおいても電気の流れにくさを生じさせる抵抗、これらをまとめた電気の流れにくさを「インピーダンス」といいます。記号は「Z」単位はやはり「Ω(オーム)」となります。しつこいようですが、インピーダンスはあくまでも交流回路上での作用です。
インピーダンスはどのようにしてその作用の大きさを計上するのでしょうか。また、オームの法則での利用などが可能なのでしょうか。
インピーダンス算出には少しだけややこしい計算が必要となります。そしてオームの法則の中で利用することも可能です。
この項ではその扱いのコツについて説明します。
1)複素数計算が必要
いきなり「複素数」などという数学用語が出てきました。この時点で嫌気がさす人もおられるかと思いますが、インピーダンス計算限定で話をしますので是非ともじっくり読み進めてください。
では、まず複素数とは何なのでしょうか。まずはそこから入っていきます。
a.虚数を使う
複素数では「虚数」という数値を用いることになります。複素数を理解するにはこの虚数を理解する必要があります。
虚数とは「2乗すると“0”未満になる数」のことで虚数単位というものが付加される数になります。虚数単位は「2乗すると“-1”となる数」のことをいい、記号では「i」を用います。具体的数値としては「√(-1)」となります。
そしてこの虚数は現実には存在し得ない数となります。
虚数単位の定義と特徴を表現した式は以下です。
$i=\sqrt{-1}$
$i^2=(\sqrt{-1})^2=-1$
さらに以下には虚数を表現する式を記載します。
$x=ai$
上の式においてたとえば「a=5」が与えられている場合「x2」を計算した結果は「-25」となります。2乗してなおマイナス(-)になる数を表現できています。
b.複素数は実数と虚数の組合せ
先程、虚数について簡単に説明しましたが複素数は現実に存在する実数と現実には存在しない虚数を組合せた数となります。
これは周期動作や円運動を表現するのに便利な数式となり、電気を学習するうえでも必要不可欠な概念となります。
複素数の基本形を以下に記載します。
$x=a+bi$
上の式では「a」が実数部、「i」を乗じた「bi」が虚数部となります。複素数はこの形で表現されます。
2)電気数学での複素数
先程まで、数学における複素数について説明をしました。ここでは電気の分野でこの複素数がどのように利用されるかについて説明します。
早速ですが以下に式を記載します。
$\dot{Z}=R+jX$ [Ω]
まず、インピーダンスを示す記号「Z」の上に「・」がついています。これはベクトル量を意味する表記となります。複素数を表現するのにグラフのようなものを用いますが、これを複素平面といいます。複素数を複素平面に書き表すとベクトル図となりますのでこのような表記になります。
各々「R」は抵抗,「X」はコイルとコンデンサを問わないリアクタンスを意味します。
そしてさりげなく現れた「j」ですが、これが虚数部を表現する記号となります。先程「j」が虚数部を表すといいましたが、電気の分野では「i」は交流電流のピーク値を表すのに用いるのでこれとかぶらないように「j」が使用されます。さらにはリアクタンス「X」の前に「j」がついていますが、これについては正直なところ筆者は理由をわかってはいないです。
3)インピーダンスの大きさ
交流回路におけるコイルやコンデンサを含む電気の流れにくさであるインピーダンスは複素数表記になることを説明しましたが、その大きさは具体的にどうなるのでしょうか。複素数表記のままだと電気の流れにくさとしての値がわかりにくいですね。
ということで、その値については以下のように算出します。
$Z=\sqrt{R^2+X^2}$ [Ω]
「あれ?これ何かに似てる」と気づいた人。素晴らしいです。力率の計算の皮相電力算出にそっくりですね。
複素数はベクトル量なので複素平面上に表された値は「三平方の定理」を用いて計算されることになります。具体的には、複素数で表された値の実数部を横軸、虚数部を縦軸にとりその二つの値を各々2乗し加算した平方根がインピーダンスの値となるということです。
6.合成インピーダンス
インピーダンスは交流回路における抵抗,コイル,コンデンサを含めた電気の流れにくさであることは既に説明のとおりです。
では、このインピーダンスは合成することができるのでしょうか。複数抵抗からなる回路での合成抵抗算出時のように計算することはできるのでしょうか。
結論からいえば「可能」です。しかしあくまでも複素数を用いた計算となります。特に並列接続ではややこしい計算過程をふむことになります。
1)インピーダンス直列合成
インピーダンスの直列の合成については比較的容易です。実数部は実数部どうし、虚数部は虚数部どうしで加算減算します。減算が存在するのはコイルとコンデンサのリアクタンスが互いに打ち消し合うからです。
a.抵抗,コイルの直列接続
抵抗とコイルを直列に接続している場合はこれまでのインピーダンスに関する説明のままになります。以下がこの場合の式になります。
$\dot{Z}=R+jX_L$ [Ω]
インピーダンスの大きさは以下のとおりです。
$Z=\sqrt{R^2+{X_L}^2}$ [Ω]
b.抵抗,コンデンサの直列接続
抵抗とコンデンサを直列に接続している場合は虚数部に「マイナス(-)」の符号がつきます。これは先に説明した「XC=1/(ωC) [Ω]」が根拠となります。これをベクトル量として計算すると以下の式となり結果マイナス符号が出てきます。
$X_C=\frac{1}{jωC}$ [Ω]
⬇
$X_C=-j\frac{1}{ωC}$ [Ω]
このことから抵抗とコンデンサを直列接続したインピーダンスは下のような式となります。
$\dot{Z}=R-jX_C$ [Ω]
インピーダンスの大きさについては2乗するのでコイルのときの計算式と同じ要領で計算可能です。
$Z=\sqrt{R^2+{X_C}^2}$ [Ω]
2)インピーダンス並列合成
インピーダンスの並列接続による合成はとにかくややこしくなります。並列接続の場合、抵抗のみの合成でも充分ややこしいのですが、これがインピーダンスともなるとそのややこしさは数倍増しになります。
基本的には抵抗の並列接続時と同じ、「逆数の和の逆数」で計算します。そこに複素数が絡むことで分母に「j」があらわれますので、その有利化のために式は長くややこしくなるということです。
a.抵抗,コイルの並列接続
抵抗とコイルを並列に接続している場合、式は以下のようになります。
$\dot{Z}=\frac{1}{\frac{1}{R}+\frac{1}{jX_L}}$ [Ω]
このままだと非常に計算しにくいので左辺右辺双方の逆数で計算を進めます。このインピーダンスの逆数にも名前がついており「アドミタンス」といいます。記号は「Y」で単位は「S(ジーメンス)」と表現します。「○○タンス」が多くでてきて混乱しそうですね。
$\frac{1}{\dot{Z}}=\frac{1}{R}+\frac{1}{jX_L}$ [Ω]
通分して分数の加減算を行います。そして分子が「x+jy」と同じ形になった時点で逆数をもとに戻します。
$\frac{1}{\dot{Z}}=\frac{1}{R}+\frac{1}{jX_L}$
$=\frac{jX_L}{jRX_L}+\frac{R}{jRX_L}$
$=\frac{R+jX_L}{jRX_L}$
$\dot{Z}=\frac{jRX_L}{R+jX_L}$
そこから分母の有利化のために式の展開と因数分解の公式を利用します。具体的な計算は以下に記載します。
$\dot{Z}=\frac{jRX_L}{R+jX_L}$
$=\frac{jRX_L}{R+jX_L}・\frac{R-jX_L}{R-jX_L}$
$=\frac{jRX_L(R-jX_L)}{(R+jX_L)(R-jX_L)}$
$=\frac{R{X_L}^2+jR^2X_L}{R^2+{X_L}^2}$
ここで上の式を実数部と虚数部に分けます。そうすることで下の式を得ます。
$\dot{Z}=\frac{R{X_L}^2}{R^2+{X_L}^2}+j\frac{R^2X_L}{R^2+{X_L}^2}$ [Ω]
とてもややこしい計算になりますがひとつひとつの工程はさほど難しくはありません。因数分解の定理や式の展開方法に間違いが無ければ問題無くインピーダンスを導くことができます。
なお、このインピーダンスの大きさは以下の式で得られることとなります。
$Z=\sqrt{{(\frac{R{X_L}^2}{R^2+{X_L}^2})}^2+{(\frac{R^2X_L}{R^2+{X_L}^2})}^2}$ [Ω]
b.抵抗,コンデンサの並列接続
抵抗とコンデンサを並列に接続している場合、式は以下のようになります。分母にある虚数部の符号がマイナス(-)になっていることに注意してください。
$\dot{Z}=\frac{1}{\frac{1}{R}-\frac{1}{jX_C}}$ [Ω]
コイルの計算時と同様、アドミタンスの形に変形します。つまり左辺右辺双方の逆数で計算を進めるということになります。
$\frac{1}{\dot{Z}}=\frac{1}{R}-\frac{1}{jX_C}$
ここでもコイルの計算時と同様に通分した後加減算を行い、分子が「x+jy」と同じ形になった時点で逆数をもとに戻します。と、言いたいところですが符号の関係でコイルのときのようにきれいに「x+jy」のようにはなりませんが表現の順番が逆となっているだけで根本的な式の成り立ちとしては同義です。
$\frac{1}{\dot{Z}}=\frac{1}{R}-\frac{1}{jX_C}$
$=\frac{jX_C}{jRX_C}-\frac{R}{jRX_C}$
$=\frac{jX_C-R}{jRX_C}$
$\dot{Z}=\frac{jRX_C}{jX_C-R}$
そこから分母の有利化のために式の展開と因数分解の公式を利用します。これもコイルの計算時と同じです。
$\dot{Z}=\frac{jRX_C}{jX_C-R}$
$=\frac{jRX_C}{jX_C-R}・\frac{jX_C+R}{jX_C+R}$
$=\frac{jRX_C(jX_C+R)}{(jX_C-R)(jX_C+R)}$
$=\frac{-R{X_C}^2+jR^2X_C}{-{X_C}^2-R^2}$
実数部と虚数部の符号が逆であり、抵抗値を示す実数部がマイナス(-)になっています。これでは感覚的に現象を掴みづらいので分子分母に各々「-1」を乗じます。
$\dot{Z}=\frac{-R{X_C}^2+jR^2X_C}{-{X_C}^2-R^2}・\frac{-1}{-1}$
$=\frac{R{X_C}^2-jR^2X_C}{R^2+{X_C}^2}$
上の式を実数部と虚数部に分けます。以下の式が得られますが、コイルの時との違いは虚数部の符号がマイナス(-)になっているところにあります。
$\dot{Z}=\frac{R{X_C}^2}{R^2+{X_C}^2}-j\frac{R^2X_C}{R^2+{X_C}^2}$ [Ω]
こちらもややこしい計算になりますね。
なお、このインピーダンスの大きさは以下の式で得られることとなります。やはりコイルの時と同様の式になります。
$Z=\sqrt{{(\frac{R{X_C}^2}{R^2+{X_C}^2})}^2+{(\frac{R^2X_C}{R^2+{X_C}^2})}^2}$ [Ω]
3)RLC合成インピーダンス
ここまで、抵抗とコイル,抵抗とコンデンサに関しての合成インピーダンスをどのように計算するかについて説明しました。
このあと素直に出てくる疑問は、「じゃあ、抵抗もコイルもコンデンサも混じっている場合はどう計算するんだ?」ですよね。
ここでは抵抗もコイルもコンデンサも接続されている場合(RLC回路)の計算式について記載します。もちろん交流回路における説明であるということが前提となります。
計算式だけの記載となりますがこれを知っているか知らないかでその差は大きくなります。
a.RLC直列接続
RLC直列接続の場合はやっぱりわかりやすい計算式です。コイルとコンデンサはその作用が互いに打ち消し合うのでそれをそのまま式に表すことになります。
$\dot{Z}=R+j(X_L-X_C)$ [Ω]
このときのインピーダンスの大きさは以下の式のとおりです。
$Z=\sqrt{R^2+(X_L-X_C)^2}$ [Ω]
b.RLC並列接続
RLC並列接続の場合はややこしさに拍車がかかった計算式です。直列の時と同様で、コイルとコンデンサにおいて、その作用が互いに打ち消し合うことは同様ですので分母にその特徴があらわれることになります。
$\dot{Z}=\frac{1}{\frac{1}{R}+\frac{1}{jX_L}-\frac{1}{jX_C}}$ [Ω]
やはりアドミタンスの状態に変形します。
$\frac{1}{\dot{Z}}=\frac{1}{R}+\frac{1}{jX_L}-\frac{1}{jX_C}$
ここで、虚数部を「1/j」で因数分解します。
$\frac{1}{\dot{Z}}=\frac{1}{R}+(\frac{1}{j})(\frac{1}{X_L}-\frac{1}{X_C})$
こうすることで虚数部を「1/X」と置き換えることが可能となります。具体的には以下のように置き換えます。
$\frac{1}{X}=\frac{1}{X_L}-\frac{1}{X_C}$
これにより計算式の複雑さはかなり緩和されます。この緩和された結果は「2)」と同じ形の計算式になります。
$\frac{1}{\dot{Z}}=\frac{1}{R}+\frac{1}{jX}$
$=\frac{jX}{jRX}+\frac{R}{jRX}$
$=\frac{R+jX}{jRX}$
$\dot{Z}=\frac{jRX}{R+jX}$
分母の有利化をします。
$\dot{Z}=\frac{jRX}{R+jX}$
$=\frac{jRX}{R+jX}・\frac{R-jX}{R-jX}$
$=\frac{jRX(R-jX)}{(R+jX)(R-jX)}$
$=\frac{R{X}^2+jR^2X}{R^2+{X}^2}$
実数部と虚数部に分けた結果下の式が得られます。
$\dot{Z}=\frac{R{X}^2}{R^2+{X}^2}+j\frac{R^2X}{R^2+{X}^2}$ [Ω]
インピーダンスの大きさについては次のとおりです。
$Z=\sqrt{{(\frac{R{X}^2}{R^2+{X}^2})}^2+{(\frac{R^2X}{R^2+{X}^2})}^2}$ [Ω]
ほとんど「2)」のときと変わらない計算ですね。ただし、先で定義付けした「1/X」の存在を忘れてはいけません。上の式ではすでに「1/X」ではなく「X」となっていますので、逆数を戻した形にしておく必要があります。
$\frac{1}{X}=\frac{1}{X_L}-\frac{1}{X_C}$
$X=\frac{X_LX_C}{X_C-X_L}$ [Ω]
上記、インピーダンス「Z[Ω]」の式と「X[Ω]」を駆使することで、個別の「XL[Ω]」と「XC[Ω]」を算出することが可能です。これだけややこしい式ですので、何が既知で何を算出したいかを見極めながら整理して計算をしていくことが大切です。
7.ひたすら複雑な計算
ここまで、インピーダンスの計算方法について解説してきましたが、とにかくややこしい計算であることがよくわかるのではないでしょうか。
「L[H]」や「C[F]」などの算出を求められる場合もやはり複雑さにかわりはありません。「jωL」や「1/(jωC)」を利用するのみです。
さらに、ここから電圧や電流を計算しなければならない場合や、直並列が混じった回路ではもっと頭の中を整理して挑む必要があります。
まずは、ここに挙げた例を覚えるのではなく理解してから前に進むようにすると良いのではないかと考えます。虚数単位の扱いに慣れると交流回路の理解も回転するものや現象への理解も深まりますので、ひとつずつ丁寧に知識として落とし込んでいくと良いと思います。
電気を学びその職務に従事するにあたって必要となる資格。この資格というものは果たして有効なものなのか、それとも無用の長物であるのか。筆者の意見をまとめました。また、電気の管理における代表的な資格(電験3種)に挑むにあたって必須となる参考書に関するおすすめの記事もまとめています。以下からどうぞ。