受電室での音~直列リアクトルのうなり~

電力と制御の体験記
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1.受電室での違和感

筆者は出勤日には毎朝夕に必ず受電室に立ち寄ります。その目的は受電電圧や消費電力,負荷力率の確認のため、また受電室内に目視等で確認できる異常は無いかなどを確かめることにあります。電気主任技術者としての職務のひとつですね。

その日の朝もいつもどおり受電室に立ち寄りました。そして違和感をおぼえました。

前日は大雨で受電室内もその雨音が響き音的な異常を知るには難しい日でした。その影響もあってか、受電室内での音的な意味での強い違和感がありました。

「ブィ~~~~~……」

筆者はこのとき素直に「なんか動作音大きくないか…?変圧器?急に??」と思いました。

前日の雨音が今日は無いからとか、気のせいではないかとかに都合のよいことが頭をよぎりましたが感覚的にどうしても何かの動作音が大きく感じられてしかたありません。

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2.都合のいい考えは捨てる!

気になりだすともう止まりません。やはり「前日の雨音」のことや「気のせい」であること、「受電室での異常ともなれば場内の影響が多大となり簡単には事が進まない」などが何度も言い訳として、そして面倒ごとから逃げる口実として浮かび上がってきましたが、事実確認と可能な限り数値で表現することが大切であると考えるのでご都合主義は拭い去るよう自分に言い聞かせました。

余談ですが、筆者は数値での表現が大切だと考えている一方、人間(生物)の持つ感覚も大事だと考えています。五感による検知能力はとても優れたものだと思います。

現にこれまで開発されてきた各種センサーは生物のそれを模して発展してきたものが多くあります。

それを理由に自分の感覚を今一度信用しようとも考えました。

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3.ならば対策は?

では、これからどうすべきかを模索しました。電気工作物からの微妙な異音の上昇のみを理由に、いきなり構内を停電させ工事に入るなどというとんでもない行動には出れません。

ならば現状をもっともっと把握し、この先なにが考えられるのかを掴む必要があります。

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4.音の発生源は?

まずは、気になるこの音が何から発生しているのかを確認しました。答えはすぐに出ました。少し近づいただけでわかるくらいうなり音を出していました。

それは「直列リアクトル」という高調波打ち消しのための機器からのものでした。

かなり古いものらしくパッと見ただけでは型式すらわかりません。わかるのは「モールド式の直列リアクトル」ということのみです。

しかしたしかにこの機器から大きなうなり音が発せられています。

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5.調べてみよう

このような機器からでるうなり音はどの程度まで許容できるのか、答えは出ないかもしれないけれど調べてみました。

ドンピシャリではありませんがモールド式の変圧器の説明をみることができ、そこにはモールド式は動作音がかなり大きい(数値では出ませんでした)ことがわかりました。また、その温度にも注意しなければならないこともわかりました。

しかしその動作音に関しては明確な判断基準が見当たらず、温度にしても問題の直列リアクトルの絶縁クラスがわからず、現状をどう捉えていいのか悩みました。

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6.トレンドを追う

現状では今すぐにはどうにもならないことと、今すぐにどうにかしなければならないとういわけでもなさそうというところからトレンドを追いかけることにしました。

早速、騒音計と放射温度計を準備し、日々測定をはじめました。毎朝夕、音に関しては可能な範囲で近づいた定位置で、温度に関しては最も高い測定ポイントを探し、最も低い基準の90[℃]を目安として決めました。

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7.日々測定

初めて騒音と発熱を測定したときは各々、65[dB],55[℃]でした。ちなみに季節は春、外からの目立った騒音も無く外気温は20[℃]程度でした。

出勤日は休むことなく日々測定した結果、やはり騒音は少しずつ上昇していってるようで晴れた静かな日でも66[dB]まで上がりました。温度は夏のピークに75[℃]まで上昇するという結果でした。

もちろん測定と同時に直列リアクトルの更新計画を立て、来年の夏には持ち越さないように準備も進めていました。

更新のための説明もしました。そもそも、直列リアクトルなるものが何のためにあるのか、それが劣化したら最悪なにが起きるのか、少しオーバー気味にではありますが「できる限り丁寧に」を心がけ説明したところ、思ったよりもすんなりと受け入れられました。

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8.晴れて更新

測定開始から約1年が経過した頃、毎年の停電による年次点検日がやってきました。

「この日をどれだけ待ちわびたことか。直列リアクトルちゃんもよく保ってくれたね」

これが、当日朝の心境でした。点検結果に対するいつもの少しだけの不安ももちろんありましたが、結果的には更新工事も点検も無事に終了しました。

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9.感覚と習慣

後日談ですが、工事を終えたあとに幾人かの関係者にこのままこの直列リアクトルを放置していた場合について問いかけてみました。

すると、高確率で「今年の夏が微妙」「3年は保たないな」という意見がでてきました。

実は筆者も全く同じ見解でした。

つまりプロが異口同音に「この先の不安は大きい」と答えたのです。

これを踏まえたうえで、今回の出来事を通じて得たことは、「人間の持つ五感は鋭い」ということと「習慣化による変化の見極めの大切さ」です。

愚直ではあるがなにかを続け、日々の当たり前の姿を脳に焼き付けるということがこういう場でも役に立つものだと実感できた良い経験でした。