1.微小な抵抗
これまで、このサイトでは電気の三要素の話や絶縁の話、また接地工事の話などで数々の抵抗に関する説明をしています。
その中では「ミリオーム([mΩ])」クラスの抵抗から「メガオーム(メグオーム)([MΩ])」クラスまで大小様々な値が取り上げられてきました。そして、その測定ではテスターや絶縁抵抗計または接地抵抗計が用いられています。この中でも特に高い抵抗値を測りとることが可能なのが絶縁抵抗計です。高い電圧源をもち、「キロオーム([kΩ])」や「メガオーム([MΩ])」の測定を可能としています。
では逆に低い抵抗について、特に微小な抵抗値の場合は何で測りとるのが良いのでしょうか。すぐに思い浮かべるのはテスターやマルチメーターなど回路計とよばれるものではないでしょうか。しかしこれらについて、普段から扱っている方ならご存知でしょうが通常用いる回路計ではデジタルのものでも0.1[Ω]オーダーすなわち100[mΩ]以下を測りとることが難しくなってしまいます。
ならば、もはやそのような微小な抵抗は測れないように感じてしまいます。また、そのような微小な抵抗値など測る必要も無いかのように思われます。しかし決してそんなことはありません。測定する必要もありますし測定自体可能です。
2.微小抵抗値測定の必要性
先程小さな抵抗値でも測定する必要があり、かつ測定可能であると述べました。
では、それはどのようなときに要求されるのでしょうか。
1)電線,配線の抵抗値
要求される場面としては、ひとつに電線,配線の抵抗測定があげられます。
電気エネルギーを伝達する役目をもつ電線や配線は高い抵抗値であってはいけません。もし電線などが高い抵抗値であるならば、実際に電気を通じたときに多くの電力をこれら電線や配線で消費してしまうことになってしまいます。そうならないためにも電線,配線の抵抗値は可能な限り低くしなければなりません。
上記のような理由から電線や配線の抵抗値は、特に単位長あたりではとても小さな値となります。そして本当にそれらが要求どおりの値であるのかを測定する必要が出てきます。
2)炉材など素材の抵抗値
小さな抵抗値を測る必要がある場面としては、上記の他にも間接加熱式の誘導炉に用いる炉材に対してなどがあります。この場合いかに電気を通しやすいかが加熱の性能に影響します。より低い電圧で大きな電流を生じさせたい設計であるならばさらに電気を通しやすいように小さな抵抗値であることを必要とします。
このようなときにも精密に抵抗を測定できる必要が発生します。先の電線などを含め、素材の通電性能を知りたい場合、そのほとんどが精密抵抗測定の範囲に入ってくることは容易に考えられますね。
3.測定方法
小さな抵抗値を測定する必要があるのはどのようなときなのかについて解説しましたが、実際どのようにして測るのでしょうか。回路計を用いる場合と何が違うのでしょうか。
以降、小さな抵抗の測定すなわち「精密抵抗測定」についての解説をすすめます。
1)二端子法(回路計)
まずは、スタンダードな抵抗測定から解説します。
電気の仕事に携わるうえで必携の測定器である回路計。これらマルチメーターを含む回路計での抵抗測定を「二端子法」または「二端子測定法」といいます。
既出ですが測定の回路を以下に記載します。負荷となる抵抗が20[Ω]の場合を例にとりあげています。
精密抵抗測定において、この図を見る限りでは「何が問題なの?あとはレンジの調整で測定可能な範囲を変更したらよいのでは?」と思われる方も多いのではないでしょうか。
では、なぜ二端子法では精密抵抗測定が難しいのか説明します。
その要因は「測定精度」と「リード線(テストリード)の抵抗」にあります。ここで「リード線の抵抗」という場合、計器本体とリード線、またはリード線と測定対象を各々接続(接触)する箇所における「接触抵抗」も含みます。
精密な抵抗を測定したい場合、対象となる被測定物の抵抗値は数ミリオーム([mΩ])以下であることが容易に考えられます。
そしてこのとき、リード線の抵抗が測定対象と同等の数ミリオーム([mΩ])クラスであるとしたら、回路計本体からすると自身を構成する部品と同等の抵抗を測り取らなければならないということになります。無理な話であることがよくわかります。
「アナログなどの回路計でゼロ調しておけば、差分として小さな抵抗が出るんじゃない?」と考える方もおられるかもしれません。そこに関しては間違ってはいません。しかし、測定対象と同等の抵抗値をもつリード線に電流を生じさせることのできる電圧の環境下では測定対象の抵抗値はもはや誤差でしかありませんし、目盛り上でも見えないくらいの値となります。
ゆえに回路計を用いる二端子法では微小な抵抗測定においても限界があるということになります。
具体的な例として、以降の図と数値で記載します。
各要素の前提は以下となります。
・出力電圧:E = 1.5[V]
・定格電流:1[A](1000[mA])
・リード抵抗1:R1 = 1[mΩ]
・リード抵抗2:R2 = 1[mΩ]
図中にもありますが、測定の結果次のような電流値を計上したとします。
・測定電流:IX = 149.9550...[mA]
このとき、計上される抵抗値は内部抵抗やリード抵抗を含めた合成抵抗として約10.003[Ω]となります。ここから内部抵抗やリード抵抗を差し引くと、測定対象は約1[mΩ]ということになります。
ではなぜこれが測定下限界なのでしょうか。それは、測定電流からみるとよりわかりやすいのではないでしょうか。比較として測定対象を介さない回路で考えます。つまり回路計のゼロ調整と同じような回路です。
出力電圧やリード抵抗などの要素を先と同一とし、ここで計上する測定電流をI0[A]とするとその値は149.9700...[mA]となります。これはわずか0.015[mA]の差でしかありません。さらに、アナログの回路計において「×1」のレンジで測定できるのは最大数キロオーム([kΩ])です。そのなかで、1[mΩ]程度の差というのはもはや誤差としか言いようがないということが理由となります。ましてや、0.〇〇〇[mΩ]などを正確に測定したい場合を考えると不可能としか言えません。
2)四端子法(精密抵抗測定)
回路計を用いた二端子法では、微小な抵抗を測定することが難しいということを先の項目で説明しました。ではその微小な抵抗をいかにして測定するのか。そのための方法について説明します。
精密に抵抗を測定できる方法として「四端子法」というものがあります。「四端子測定法」ともいわれます。以降の項目で測定原理を図と共に説明します。
二端子法ではリード線の抵抗が精密抵抗測定の妨げになっていましたが四端子法ではそのリード線の抵抗を無視または極小にすることができます。
a.測定原理
測定原理としては次のとおりです。
①測定対象を含む回路に電流を生じさせる。
②測定対象でどれだけの電圧降下があるかを測りとる。
③生じた電流と電圧降下から抵抗値を算出する。
上記の方法で、リード線の抵抗を無視または極小にすることが可能となります。
その根拠を以下に例と共に記載します。
例えば測定対象となる抵抗をRX[Ω]とします。このときの電流源につながるリード線の抵抗をR1[Ω],R2[Ω]とし、電圧測定のためのリード線の抵抗をR3[Ω],R4[Ω]とします。また、測定のための定電流源から供給される電流をIX[A]とし、電圧計の抵抗をRV[Ω]とします。
この環境下で四端子法を用いて測定をします。固定的な各要素の値については下のとおりとします。
・電圧計内部抵抗:RV = 50[kΩ]
・リード抵抗1:R1 = 1[mΩ]
・リード抵抗2:R2 = 1[mΩ]
・リード抵抗3:R3 = 1[mΩ]
・リード抵抗4:R4 = 1[mΩ]
まず、測定対象に電流を発生させます。測定電流は1[A]、定電流源からの供給です。
ポイントは計器に組込まれた電圧計の値となります。キルヒホッフの第二法則、すなわち電圧則により、ある負荷に電流が生じるとその負荷の大きさに応じた電圧降下が起こります。この電圧降下を測りとることで測定対象の抵抗値がわかるということです。このときの電圧降下分VX[V]が以下の値であったとします。
・電圧降下:VX = 1[mV]
これまでの条件における測定の結果がどのようになるか図と共にみてみます。
まず、回路全体には計器の定電流源からの1[A]が供給されます。そしてそのうちの幾分かが電圧計側にも流れます。その結果、先にあるとおりVX = 1[mV]を測りとった場合オームの法則からRX=1[mΩ]となります。
b.誤差
二端子法ではリード線や接触における抵抗の影響もあり、小さな抵抗はもはや誤差でしかなく正確に測りとることは不可能でした。反面、四端子法では先の測定原理から僅かな電位差を測定できる電圧計のおかげで精密な抵抗測定を可能としているということでした。
しかし、四端子法でもリード線は使用していますし、接続部での抵抗も存在しているはずです。にも関わらずなぜその影響を受けていないのでしょうか。
その理由を以下にまとめます。
①電圧降下をつくりだすための測定電流が定電流源より供給されている。
②電圧計の内部抵抗に対して、電圧測定電流が非常に小さい。
上記2点が精密抵抗測定を実現できている大きな要因となります。①に関しては定電流源であることから電流用リード線の抵抗つまりR1[Ω]とR2[Ω]は測定精度に影響しないということになります。②に関しては電圧計の内部抵抗が非常に大きい値であるがゆえに電圧測定用リード線つまりR3[Ω]とR4[Ω]にはほとんど電流が生じずこれらによる電圧降下の影響もほとんど無いということになります。
4.目的別抵抗測定
ここまで精密抵抗測定の原理と方法について解説しましたが、このサイトではこの他にも種々の抵抗測定について解説しています。
電圧や電流の測定ではあまり目的別に測定器や計器が変わることはありません。高圧か低圧かの差はありますが、測定原理までがガラッと変わることはありません。もちろん用いる測定器による差はありますし、そのレンジによってはVT(Voltage Transformer)やCT(Current Transformer)を適宜利用するなどの違いがあるかと思いますが、抵抗測定時のそれよりもギャップは小さいです。
反して抵抗測定では目的と使用測定器がはっきりとわかれています。
1)二端子測定法
この記事の序盤でも出てきた抵抗測定方法です。抵抗測定として最も手軽で多用する方法ではないでしょうか。回路計の一機能として組込まれていることが多く、発熱体(ヒーター)の抵抗や電動機(モーター)のコイル抵抗を測定するのに用いたり、配線やスイッチの導通をチェックするのにも利用可能です。
測定器のもつ特徴にもよりますが、一般的には高い精度を誇るわけではありませんが、用途はかなり広いです。
2)接地抵抗測定
漏電時に接地線(アース線)がしっかり作用する状態かどうかを測るための方法です。接地抵抗計で「E」「P」「C」の三つの接地極を用いて測定する方法です。
接地抵抗を測りますので多用するレンジは数[Ω]〜数百[Ω]の範囲です。
3)絶縁抵抗測定
通称「メガオーム(メグオーム)測定」といわれる抵抗測定です。電気使用機器のボディーなどの非充電部でいかに電気を遮断できているかを測定します。測定のしかたとしては二端子測定法と似ていますが、測定対象に印加する電圧が数十[V]〜数百[V]と高く、また高圧の機器を対象とする場合は1000[V]を印加することもあります。
レンジとしては、「メガオーム(メグオーム)計」というだけあって数[kΩ]〜数[MΩ]〜∞[Ω]の測定を得意とします。
4)四端子測定法
今回記事にした内容です。数[mΩ]以下の測定も可能な手法です。説明にあるとおり、4本のリードを使用することが特徴です。
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5.原理を知って有効活用
今回は精密な抵抗測定ということで解説をしました。電流用のリード線で定電流をとおし、測定対象の電圧降下を測りとるなんて、考えついた人は天才だなとつくづく感じます。
そしてこれら編み出された方法の原理をひとつひとつ正しく理解できれば測定器にとどまらずいろいろな機器をより安全に有効に扱うことができます。
是非とも正しい知識を得てさらにフル活用して少しでもレベルの高い仕事をしていきたいものですね!筆者も日々研鑽します!