スターデルタ始動〜接続要注意!〜

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1.電動機始動と始動電流

三相誘導電動機の始動直後、その回転が定格に到達するまでのタイムラグがあります。このタイムラグは電動機の容量が大きくなればなるほど、機械的負荷が大きくなればなるほど顕著になります。さらに、電動機の回転速度が定格に到達するまでの間、つまりこのタイムラグの発生中は非常に大きな電流が配線に生じることとなります。これを始動電流といい、このときの電流の大きさは定格電流の5~7倍といわれます。

こんなにも大きな電流が発生してしまっては、最悪の場合この始動電流により配線や接触器の焼損の懸念が生じます。そしてそのためだけに本来の設計値よりも大きな径の配線を準備しなければならなくなったり、必要以上の遮断器を組み込まなければならないというのは非常にナンセンスであると言わざるを得ません。

このことから、内線規程には容量3.7[kW]を超えてくる電動機においては特別な条件(緩和規程)に当てはまらない限り、「始動装置」による始動電流の抑制措置が必要であると取り決められています。

1)始動装置の種類

先ほど3.7[kW]を超える容量の電動機を始動させるためには始動電流抑制のための始動装置が必要となることを述べましたが、この始動装置にも数種類の方法が存在します。

これらの始動方法について簡単に紹介します。

a.スターデルタ(Y-Δ)始動

今回の記事のメインとしてとり上げる始動方法です。巻線の結線方法を操作することで始動電流を抑制します。電磁接触器と電磁継電器,タイマーを使用して比較的簡単に組み込むことが可能な始動装置となります。

このあと詳しく説明します。

b.リアクトル始動

45[kW]以上の大きな電動機に使用されます。「始動用リアクトル」を電動機の一次側に挿入した回路で、電動機へ印加する電圧を制限した状態で電力供給します。回転速度が定格付近に達すると始動用リアクトルを迂回して短絡する回路にて全電圧を電動機へと供給します。

c.コンドルファ始動

リアクトル始動に似た始動法ですが、単巻変圧器を用いるということと、それに伴う結線方法が若干異なります。しかしこの方法も始動時の一次電圧を低く抑えて供給するという点においてリアクトル始動法と同様の考え方です。

d.インバータ始動

「インバータ」という駆動制御器を用いた始動方法です。連続運転中の周波数(同時に電圧)を制御することにより電動機の回転速度を調整することが主目的の機器ですが、始動時においては電動機に供給する電源の周波数と立上げ時間を調節することにより、始動電流を低く抑えスムーズな立上げを実現することが可能となります。

インバータの基本的な使用方法についてはインバータの基本的な使い方~配線接続と設定~の記事に記載していますので参考にしてください。

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2.スターデルタ(Y-Δ)始動

三相誘導電動機の始動において「始動電流」という過大な電流の発生は、設計上も運転上も不利な方向にしかはたらかないということでした。これを抑制するための数種類の始動方法を先に紹介しましたが、この中でも組み込みが容易で安価な「スターデルタ始動」について解説します。

1)三相平衡負荷のY-Δ変換からみる

三つの負荷を使用して三相負荷を構成するとき、それらの負荷をスター結線とするかデルタ結線とするかによって回路に生じる線電流の値が変わります。それはつまり、接続方法によって回路としての負荷の値が変化するということです。

以前に相と線〜三相交流回路の理解のために〜という記事で三相負荷におけるY-Δの相互変換について説明しました。ここではスター結線負荷を等価なデルタ結線負荷へ変換する際の変換公式とデルタ結線負荷を等価なスター結線負荷へ変換する際の変換公式について記載しています。

上記を踏まえたうえで、各相の負荷の値が同一となる「三相平衡負荷」について相互変換する場合、スター結線された負荷から等価なデルタ結線の負荷への変換時では各相負荷の値を「1/3倍」とすべきこと、デルタ結線された負荷から等価なスター結線の負荷への変換時では各相負荷の値を「3倍」とすべきことが公式からも明らかです。

ということは、負荷の値をそのままに結線だけを変更した場合、スター結線からデルタ結線への変更においては負荷の値が「1/3倍」となり、デルタ結線からスター結線への変更においては負荷の値が「3倍」となります。

なんだか、裏の裏みたいな話で少しややこしいですね。

ですが、このことをうまく利用して電動機の始動に利用したものがこの記事で何度か出てきている「スターデルタ始動」です。結線の変更により回路上の負荷を3:1で変化させることにより始動時の電流値上昇を抑制します。

2)スターデルタ始動の回路

スターデルタ始動器を含む回路を以下に記載します。パッと見た目では何がどうなっているのか非常にわかりにくいですが、順を追って回路をみていくと必ず理解できます。

下の図は各々スター結線の三相誘導電動機(三相平衡負荷)とデルタ結線の三相誘導電動機です。回路中での自動切り替えにより始動時はスター結線、始動電流の減少後はデルタ結線となるように制御します。

電磁接触器を用いた切り替え回路が以下になります。スターデルタ結線による始動方法を採用することができる三相誘導電動機では、最低でも6[本]のリード線もしくは6[極]の端子があります(巻線の極数と混同しないように注意してください)。AC200[V]とAC400[V]のどちらでも使用できるように設計されたものでは12[本]のリード線が出ていたりします。

いずれにしても巻線の接続を接触器などで切り換えれるようにその両端からのリードや端子が設けられています。リード線が3[本]また端子が3[極]の電動機ではスターデルタ始動はできません。図では各巻線両端に「u1」「u2」,「v1」「v2」,「w1」「w2」というペアの端子を記載していますが、ものによっては「U」「X」,「V」「Y」,「W」「Z」というペアになっていたりもします。どのリードや端子にどの記号が割り付けられているのかについては取扱説明書等で確認してください。

下の図は上記のスター結線とデルタ結線の回路を電磁接触器で切り替えることができるようにした回路のものです。「MSM」と「MCS」が投入されることでスター結線の負荷として始動させることができます。始動電流減少後はタイマーのオフディレイ制御によって「MCS」開放後に「MCD」が投入されることでデルタ結線の負荷になります。こうすることで始動時の過度な電流上昇を抑制することが可能となります。

スター結線にはもうひとつの結線方法があります。先程の図では単純に三線を一括で短絡していました。これを「スター短絡」といいます。

対して以下の図では、U相のMCS二次側をV相のMCS一次側へと接続し、V相のMCS二次側をW相のMCS一次側へ接続し、W相のMCS二次側をU相のMCS一次側へ接続しています。これを「デルタ短絡」といいます。

「スター結線のスター短絡」と「スター結線のデルタ短絡」ではMCSの接点が負担する電流が変わります。

スター短絡では2線から流入(流出)する電流をひとつの接点が負担することとなりますが、これをデルタ短絡にすると1線分の電流をひとつの接点で負担することとなり、接点容量を低く抑えることが可能となります。結果、電磁接触器の小型化と配線の小径化が図れます。

ただしデメリットもあります。配線接続が少しややこしくなることにより、特に太い径の配線でこのデルタ短絡を実施しようとすると、その施工のやりにくさが顕著になります。

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3.スターデルタ始動の制御

先の項目で、スターデルタ始動はタイマーによる切り替えで制御すると述べました。比較的簡単な回路で制御することが可能です。また、「スターデルタタイマー」というスターデルタ始動専用のタイマーもありますので、これを使用することでなお容易に制御することが可能になります。

1)スターデルタ制御

先ずは、通常のタイマーを使用したスターデルタ始動制御の回路です。以下の回路になりますが、必要なタイマーはふたつです。ひとつ目のタイマーはスター結線で運転する時間(a[sec])を決定するタイマーで、ふたつ目はスター結線をデルタ結線に切り替える際にどちらの結線でもない瞬間(b[sec])をつくり出すためのタイマーです。いうなればインターバルをつくるためのタイマーということになります。

このインターバルは非常に大切な設定となります。仮にこのインターバルが無かったとして、そのせいでスター結線用の接触器とデルタ結線用の接触器が同時に接続される状態が一瞬でもつくられてしまうとそれは即座に短絡となります。スター結線用の接触器が開放した瞬間のアーク放電時間も加味したうえで、かつ回転速度も損ない過ぎない程度で時間設定する必要があります。

また、同時に主回路上で「MCS」の接点が投入されている場合は「MCD」の接点が投入されないようにそして「MCD」の接点が投入されている場合は「MCS」の接点が投入されないようにするためインターロックとしてのb接点も互いの回路に挿入されています。タイマーの故障などによる誤作動で短絡をしないための措置です。

スター結線状態の継続時間もインターバルの時間も負荷の大きさに依存しますので一概にこれだけとはいえませんが、概ねスター結線継続時間は3[sec]~数十[sec]、インターバル時間は0.5[sec]~1[sec]程度ではないでしょうか。ですがやはりこれはあくまで目安の時間設定ですので負荷と電流の挙動にあわせて設定すべきです。

回路を簡単に説明すると、先ず起動のための「PB1」が押下されると「RYMSM」が励磁及び自己保持されます。次に「RYMSM」のa接点にて電磁接触器の「MSM」とタイマー「TSD」が励磁されます。さらに「TSD」のb接点を介して「MCS」も励磁されます。ここまでで電動機の回路はスター結線で電力供給されて動作することとなります。「TSD」のタイムアップにて接点状態が変わると「MCS」の励磁が解除され、代わりに「TIN」が励磁されます。このとき電動機は惰性で回転を続けることとなります。「TIN」がタイムアップすると、そのa接点が投入され「MCD」が励磁されます。結果、電動機はデルタ結線で動作することとなります。

2)スターデルタタイマーを使った制御

スターデルタ始動制御専用のタイマーとして「スターデルタタイマー」があります。そのままの名ですね。これを用いることでこのひとつのタイマーでスターデルタ始動の制御が可能となります。自己保持の回路と組み合わせて容易に構成できます。

スターデルタタイマーではスター結線での運転時間とインターバルの時間を各々別々に設定します。これによりスター結線用の接点とデルタ結線用の接点の切り換えが自動的に実行されます。念のためではありますが、ここでも誤作動などによる「MCS」と「MCD」の同時投入を防止するためのインターロック用接点を挿入しています。

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4.電流が1/3になる理由

ここまで、スターデルタ始動を回路に利用することで始動電流を1/3に抑制できることとそのために必要な回路構成について解説してきました。では実際になぜ1/3になるのかについて解説します。

スターデルタ始動で電流を1/3に抑制できる理由を述べるにあたっては「一相分」の電圧と電流からのアプローチが必要です。

以前の記事、相と線〜三相交流回路の理解のために〜で一相分の電圧と電流を理解について解説しています。詳しくはこの記事の参照することで明らかになりますが、ここではその理論を抜粋して説明します。

1)スター結線時の線電流

スター結線では、負荷一相分にかかる電圧は線間電圧の1/√3倍となります。線間電圧をスター結線デルタ結線共通のVl[V]とし、一相分の負荷にかかる相電圧をVps[V]とすると、Vps=(1/√3)Vl[V]となります。また、相電流Ips[A]と線電流Ils[A]は同じ値になります。負荷の一相分のインピーダンスをスター結線デルタ結線共通のZ[Ω]とするとスター結線負荷の回路に生じる線電流は以下のようになります。

2)デルタ結線時の線電流

デルタ結線では、負荷一相分に生じる電流は線電流の1/√3倍となります。線電流をIld[A]とし、一相分の負荷に生じる相電流をIpd[A]とすると、Ipd=(1/√3)Ild[A]となります。また、一相分の負荷にかかる相電圧をVpd[V]とし、線間電圧をスターデルタ共通のVl[V]とすると、これらは同じ値になります。負荷の一相分のインピーダンスをスター結線デルタ結線共通のZ[Ω]とするとデルタ結線負荷の回路に生じる線電流は以下のようになります。

3)スター結線とデルタ結線の線電流比較

上記までで、スター結線時の線電流とデルタ結線時の線電流が各々共通の値となるVl[V]とZ[Ω]で表されました。これらを比較することでスター結線時とデルタ結線時の電流比が算出されます。なお、比較はわかりやすさのために「デルタ結線時の線電流」:「スター結線時の線電流」としています。

見事に「3:1」になっています。

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5.接続間違いが即事故に!

当たり前のことではありますが、電気回路における接続間違いは事故へ直結する可能性が高いです。どの回路を扱ううえでも接続すべき位置を間違えないことはとても重要です。

そしてスターデルタ始動においては、この間違いがさらにおこりやすいのではないかと筆者は考えます。理由は「R(U)」「S(V)」「T(W)」の各相から接続される配線をもういちどどこかの相へと戻して結線したり、各々を短絡させたりという具合に、行ったり来たりする結線方法となっているからであると考えます。

先にも述べたとおり、この回路では接続間違いが即短絡事故に繋がる可能性が非常に高いです。であればなおのこと、その理屈をよく理解して注意深く作図や結線作業を実行しなければならないです。

スターデルタ始動は電磁接触器やタイマーで手軽に始動電流を抑制できる、とても重宝する制御です。駆動系では頻繁に出てきます。だからこそ、正しく理解して間違いの無い設計や結線作業に努めることが肝心であると考えます。