電力と電力量〜似て非なるもの〜

電気の基礎
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1.電力と電力量は違うもの?

電気の業務に携わっていると、「電力」という言葉をよく耳にすると思います。そしてたまに「電力量」という似たような言葉が出てきます。

思わず「電力」は「電力量」の略称なのかと勘違いしてしまいかねないこの二つの言葉。ですがこれらは実は似て非なるものなのです。

今回は各々の考え方を解説すると同時に、この二つがどう違うのかについて説明します。

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2.電力とは

「電力」という言葉を文字のとおりに解釈すると「電気の力」となります。実際そのとおりで、なにも間違ってはいません。ただ少しだけ付け加えるとしたら、「単位時間あたりの電気エネルギー」ということになります。そしてこの単位時間は通常1[s]のことをいいます。

1)電力の算出方法

電力を算出する方法は幾とおりもあります。ですが、オームの法則と同じで二つ以上の要素において既知である必要があります。ここではその幾とおりかの算出方法について解説します。

また理論と計算のわかりやすさのための前提として、以下を条件とします。

・直流回路または単相交流回路における計算とする。

・交流回路を考える場合は力率は「1」すなわちcosθ=1とする。

以下で説明する内容が煩雑になってしまうことを避けるために上記二つを前提条件とします。

a.電圧と電流が既知の場合

電圧と電流がわかっている場合の電力の算出方法は以下のとおりです。

$P=VI$ [W]

これは電力を計上するうえで最も基本的な公式であり計算方法です。

系統の電圧と電流がわかればその値の乗算(かけ算)で電力の値となります。

b.電圧と抵抗が既知の場合

電圧とその系統における負荷抵抗がわかっている場合は以下の式から算出することができます。

$P=\frac{V^2}{R}$ [W]

この式は覚える必要がありません。というのも、先の「P=VI[W]」とオームの法則「E=IR[V]」から導出することができるからです。ここでの「E[V]」は電源電圧を意味しますが電力算出の場合は系統にかかる電圧「V[V]」に置き換えて考えることとなります。

では式の導出をします。

まずオームの法則「E=IR[V]」の「E[V]」を「V[V]」に置き換えて「I[A]」について変形します。以下の式になります。

$I=\frac{V}{R}$ [A]

次に「P=VI[W]」の式に先程変形した「I[A]」の式を代入することで以下の式が得られます。わかりやすさのために分数に括弧をつけています。

$P=V・\frac{V}{R}$ [W]

分数の乗算の法則に則り以下の式が得られることになります。

$P=\frac{V^2}{R}$ [W]

c.電流と抵抗が既知の場合

電流とその系統における負荷抵抗がわかっている場合は以下の式から算出することができます。

$P=I^2R$ [W]

この式も覚える必要がありません。電圧と抵抗が既知の場合b.のときと同様に「P=VI[W]」とオームの法則「E=IR[V]」から導出することができます。「E[V]」を「V[V]」に置き換えて考えることもb.のときと同様です。

式の導出は以下のとおりです。

オームの法則「E=IR[V]」の「E[V]」を「V[V]」に置き換えます。

$V=IR$ [V]

次に「P=VI[W]」の式に「V[V]」の式を代入することで以下の式が得られます。わかりやすさのために代入部の前にドットをつけています。

$P=I・IR$ [W]

二回かけられている「I[A]」を指数表記に書換えることで以下の式が得られることになります。

$P=I^2R$ [W]

2)力率が絡むと

先程までの説明においてはその電力消費の有効度を示す「力率」は考慮していませんでした。しかし、交流回路においては電力の有効無効という概念があります。そしてその有効消費の度合がどれくらいなのかを示す値として力率が存在します。

では、その有効度である力率が絡むと計算方法にはどのような差が出るのでしょうか。

力率の概念については力率の理解~交流回路で必須の知識~の記事で解説していますのでここでは計算式にどう違いが出るのかということに留めます。

では力率を考慮したとき、計算式はどのようになるのでしょうか。以下にその式を記載します。

$P=VI\cos{θ}$ [W]

なんのことはないですね。ただ新たに「cosθ」をかけただけとなります。このとき算出される電力を「有効電力」といいます。

「cosθ」の代わりに「sinθ」をかけると、電力の無効分が算出されることとなります。

$Q=VIsin{θ}$ [Var]

上の式で計上された電力のことを「無効電力」といいます。記号は「Q」を用い、単位は「Var(バール)」と表現します。コイルやコンデンサが挿入される回路ではこの無効電力が生じますが、コイルとコンデンサによる無効電力は互いに打消しあい、その差分が無効電力の大きさとなります。

また力率が「1」つまり「100%」ではないときに「cosθ」をかけずに計上した電力を「皮相電力」といいます。

$S=VI$ [VA]

記号は「S」で表記されますが、「P」と表されることもあります。単位は「VA(ブイエー)」と表現します。力率が「1」のときは「S=P[W]」となります。

3)三相交流での電力

ここまで直流と単相交流の電力算出について説明しましたが、三相交流回路における電力の算出となるとどのような計算式になるのでしょうか。三相交流回路が単相交流回路とどのように違うのかを単相交流と三相交流の記事で、三相交流回路での電力測定に関して二電力計法の記事で説明をしています。ですのでここではやはり、三相交流回路における電力の計算式の説明を中心とします。

三相交流回路の電力に関する計算は基本的に単相交流回路の3倍となります。力率「1」での計算式は以下のとおりです。

$P=3EI$ [W]

これに力率を考慮した場合は以下のようになります。

$P=3EIcos{θ}$ [W]

ここで、記号について述べておきます。この場合、「E[V]」は相電圧であり「I[A]」は相電流であることに注意する必要があります。たとえば、三相変圧器などでいうと、Y結線やΔ結線されたコイル一つ分にかかる電圧を相電圧といい、同じくコイル一つ分に生じる電流を相電流といいます。三相交流回路におけるコイル一つ分を一相といいます。このあたりのことについては以前にまとめた相と線〜三相交流回路の理解のために〜にて解説しております。

実際に相電圧や相電流を測定しようとすると、変圧器や電動機(モーター)内部に接続する必要がでてきますのであまり現実的ではありません。通常は端子で測定した電圧や一線に生じる電流を測定するのが現実的です。このとき測定した相をまたぐ端子間の電圧を線間電圧といい一線に生じる電流を線電流といいます。これらの値を使用して電力を計上する場合は以下の式を用います。

$P=\sqrt{3}V_ℓI_ℓcos{θ}$ [W]

上の式での線間電圧「V[V]」や線電流「I[A]」は三相の結線方法に応じて相電圧「E[V]」や相電流「I[A]」に√3倍や1/(√3)倍する必要があります。もちろん同じ値になることもあります。

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3.電力量は電気エネルギーと同義

以前、電気エネルギーについての記事をまとめましたが、電力量はこの電気エネルギーと同義のものとなります。ただし、今回はその電力量の定義と、電力とは何がどう違うのかについての説明をします。

1)電力量とは

電力量とは投入した電気エネルギーの総量です。つまり、一瞬の値である電力をどれくらいの時間継続したかという量のことになります。

もう少しだけかいつまんで説明するならば「電圧を印加された結果、生じた電流により継続的に投入されたエネルギー(仕事または熱量)。」ということになります。

なかなかピンとこないかもしれませんが、現象からみると電気の力で発熱し続けたヒーターに与えられたエネルギーであったり、回転し続けた電動機(モーター)に与えられたエネルギーのこととなります。

2)電力とは何が違う?

電力量について言葉で説明しましたが、では電力と電力量は何が違うのでしょうか。

その違いとして決定的なのは、電力量には「時間」の要素が含まれるということです。これは電力量の単位が明確に示しています。

電力量の単位は[Ws(ワット秒)]や[Wh(ワット時またはワットアワー)]で表記されます。電力の単位である「W」に時間の単位である「s」や「h」が乗算の形で付加されています。

以下、電力量算出の式を記載します。なぜ単位に「s」や「h」が付加されるかがよくわかりますね。

ちなみに電力量の単位では時間「t」を1秒単位とする場合は単位が「[Ws]」となり、時間「t」を1時間単位とする場合は「[Wh]」となります。

$W=Pt$ [Ws]

$W=Pt$ [Wh]

3)電力量は熱量に換算可能

ここでエネルギーを語るうえで避けて通れない熱量の単位でみてみましょう。仕事や熱量などのエネルギーの単位は「ジュール([J])」であることは以前の記事でも述べています。

$W=FΔx$ [J]

$Q=Pt$ [J]

上記はいずれもエネルギーの計算式となります。上の式をみて「あれ?」と思われた方もおられるのではないでしょうか。そうです。先の2)で出てきた「W=Pt[Ws]」となんら変わりない式がありますね。記号が「W」から「Q」になり単位が「[Ws]」から「[J]」になっただけの式ですね。これは「W=Pt[Ws]」を熱量表記にしたということです。このことから以下の関係を導き出すことができます。

$W$ [Ws] = $Q$ [J]

具体的な数値で書換えるともっとイメージしやすくなります。

$1$ [Ws] = $1$ [J]

これは、電気エネルギーの瞬時値である電力への換算も可能であるということになります。端的にいうと時間[s]で除する(割る)とその結果が電力になるということです。以下にその式を記載します。

$1$ [W] = $1$ [J/s]

ここまでは1秒単位での説明でしたが、これが1時間単位となればどのようになるのでしょうか。これに関してもなにも難しいことはなく「1[h]=3600[s]」であることを念頭におけばその算出は容易なものとなります。以下関係式です。

$1$ [Wh] = $3600$ [J]

これも、電気エネルギーの瞬時値である電力への換算が可能であるということになります。先ほどと同じく時間[h]で除する(割る)とその結果が電力になるということです。以下にその式を記載します。単位の違いに充分注意する必要があります。

$1$ [W] = $3600$ [J/h]

ここで出てきた電力への換算はいずれもある時間内における瞬時値の平均値となりますので注意してください。これらは日々の電力や電力量の管理において非常に重要な意味を持つ関係式となりますのできっちりおさえておく必要があります。電験やエネ管の試験でも重要な関係式となります。

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4.電力と電力量はややこしい

この記事では「電力」と「電力量」における概念とその違いを説明しました。言葉のややこしさもさることながら、その算出に関しても充分ややこしいですね。ですがここに関してはせめて上記をしっかりと理解しておかなければエネルギーに関する理解が困難になってしまいます。

電力の計算は「オームの法則」にも出てくる電気の三要素を用いて算出可能であることや交流回路にあっては「力率」が関与すること、また三相交流回路では「相」と「線」の関係に注意して「√3」をいかに利用するのかなど、考えることがたくさんあります。

さらにそのうえで、電力量を計上する場合は「時間」の要素がどのように絡んできているのかを考えなければならず、とても煩雑な計算や工程を必要とします。

しかしこれは、電気というエネルギーを理解するために避けては通れない考え方となります。ひとつひとつはそんなに難しくありませんのでゆっくり確実に理解していくことができればよいと考えます。

焦ると、考えること自体が嫌になってしまいます。せっかく取組み始めたのならそれは非常にもったいないです。そうなるくらいならゆっくりなるべくノンストレスで理解していけば良いと感じます。

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