1.電動機の回転方向を変える
以前、電動機すなわちモーターはどのような仕組みで回転するのかについて記事をまとめました。そこでは直流電動機と交流電動機に分けて、各々回転するための構造と回転力の生み出しについて解説しています。ですが、電動機には回転方向というものがあり機械の構造によって回転してほしい方向が決定づけられているものがほとんどです。
今回はこれら電動機をどのように結線するとねらいどおりの方向に回転させることができるのかについて解説します。
また回転方向の定義づけとして、片シャフトの電動機を背後(機器連結シャフトの無い方・冷却ファンなどがある方)からみて右回りを「正転」左回りを「逆転」とします。
2.直流電動機の回転方向
直流電動機は電池などの極性変化の無い電源を使用して回転力を生み出す電動機です。ここでは電源が直流である電動機においてどのような方法を用いれば回転方向を制御できるのかについて解説します。
1)直流電動機の回転方向
直流電動機における回転方向について説明します。結果的には非常に単純です。
単にプラス極とマイナス極を入れ替えるだけの内容となります。極性を入れ替えるということは、定まっている磁界に対して電流の向きを逆にするということであり、その結果力の発生方向が逆になるということです。これにより直流電動機はそれまでと逆の回転をはじめることとなります。
以下、正転逆転における電磁力発生の違いと配線の変更方法についてを図示しています。
下の図にあるとおり、右側にN極、左側にS極を配置した状態でコイルに左周りの電流を生じさせた場合「フレミング左手の法則」によりコイル右側では下方向、コイル左側では上方向の力が生じます。結果、軸で拘束された回転子は図内の視点からみて右側に回転することとなります。
ここで、先にありましたプラス極とマイナス極を入れ替えます。すると同一の磁界の中で電流の方向だけが逆になるという現象になります。「フレミング左手の法則」を適用すると力の発生方向は右回転時と逆になります。すなわちコイルの右側で上方向、左側で下方向の力が生じます。結果、軸で拘束された回転子は図内の視点からみて左側に回転することとなります。
2)直流電動機の回転制御回路
回転方向を変えるための制御回路は以下のとおりです。自己保持回路実用の記事でも同じような回路が出てきますが、これをそのまま直流電動機の正逆転制御回路として利用することができます。
下図に記載されているのが主回路となり実際に電動機へ電源供給する回路です。
続いて以下は正逆転の制御回路となります。「RF」が正転用のリレーとなり「RR」が逆転用のリレーとなります。余談ですが「F」は「Forward」の略号で「R」は「Reverse」の略号となります。制御回路では「RF」と「RR」の各々のコイルが同時に励磁(ON)しないように互いにインターロックをとっています。これはこのあとに出てくる交流の電動機でも同じです。正転と逆転の回路が同時に入ってしまうと主回路は短絡となってしまい事故につながることになるので、このような仕組みが必要となります。
さらに言うと、開閉各々のコイルをもつ複作動電磁弁などの開閉における動作でもその矛盾を避けるために「開」と「閉」が同時に指示されないようにしなければいけません。
3.単相誘導電動機の回転方向
単相誘導電動機では始動時の回転方向の決定とトルクを得ることを目的に、交番磁界を回転磁界へと変化させる必要があります。そのためコンデンサやコイルを回路内に挿入しなければいけません。このことはモーターを回す〜電動機の回転原理〜の記事にも記載のとおりです。
では予め決められた回転方向を任意で変更するにはどのようにすべきでしょうか。ここではコンデンサ始動の単相誘導電動機を例に説明します。
1)単相誘導電動機の回転方向
単相誘導電動機において主巻線のみでは交番磁界は生じるものの回転方向を厳密に制御はできません。停止状態の回転子がどこにあるかで正転逆転が勝手に決まってしまいます。
そこでコンデンサなどを使用することで回転磁界をつくり出す必要がありました。ということはこのコンデンサの結線を変えることで回転方向を入れ替えることが可能であるということになります。
下の図は主巻線とコンデンサが挿しこまれている補助巻線の電流波形を模式的に示したものです。模式図ですので実際の電動機を簡略化したものになります。ですが原理としては違いはありません。
正転時と逆転時の波形の違いにより、互いに逆方向の回転磁界をつくりだすこととなりその影響がそのまま回転方向の違いとなって現れます。
主巻線に生じる電流波形に対して、補助巻線に生じる電流波形のタイミングが正転時と逆転時で違うことが以下の波形からわかります。この差により磁界の発生方向が異なり、結果回転方向が変わるということです。
2)単相誘導電動機の回転制御回路
回転方向を変更する回路は以下のとおりとなります。
注意しなければならないのは、直流電動機の回転方向制御のように単純に極を入れ替えても回転方向は変更できないということです。肝心なのは先ほどの電流波形にあるとおり、主巻線の電流波形を基準として補助巻線の波形のタイミングをずらすということです。では、具体的にどうすべきなのかですが、コンデンサなどが挿入された補助巻線の回路を主巻線に対して入れ替える回路を組む必要があるということになります。
また、主巻線と補助巻線に電圧が印加されるタイミングは同時であることが望ましいと考えますので、補助リレーを利用した回路構成としています。
主回路では主巻線用の開閉器である「MCM」と補助巻線の正転用である「MCF」が励磁され、接点が接触した結果正転方向(先の図の右回転方向)へと回転し、「MCM」と補助巻線の逆転用である「MCR」が励磁されると逆転方向(先の図の左回転方向)へと回転するような構成にしています。
主巻線と補助巻線に電圧が印加されるタイミングが同時であることが望ましいという考えから操作部を別に分け、接点を複数持つ補助リレーを介して押ボタンスイッチから信号を受け取るようにしています。
受け取った信号により「MCM」と「MCF」,「MCM」と「MCR」という組み合わせで電磁接触器が励磁されるように回路を組んでいます。これによりコンデンサラン型の単相誘導電動機が任意の方向で回転するように制御可能となります。
4.三相誘導電動機の回転方向
三相誘導電動機ではその電源の性質をそのまま利用することで回転磁界が創出できます。単相誘導電動機などと同様にモーターを回す〜電動機の回転原理〜の記事に記載のとおりです。
この場合、回転方向の任意の変更は非常に単純な方法で実現可能です。考え方は直流電動機のときと同じでその極性を入れ替えればよいということになります。ですが三本ある配線をどのように入れ替えればよいのでしょうか。以下、回転方向とその駆動回路について説明します。
1)三相誘導電動機の回転方向
単相誘導電動機において主巻線のみでは交番磁界は生じるものの回転方向を厳密に制御はできませんでした。ですが前述のとおり三相誘導電動機においてはその電源の性質から容易に回転磁界をつくりだすことができます。
そしてその回転磁界を逆方向に回転させることも容易に実現できます。
下の図はまず、三相誘導電動機の巻線に対して各々の巻線に電源を接続した場合の電動機とその回転方向の模式図です。もちろん巻線の方向にもよりますが下図では右回転をするような磁界が発生します。
三相誘導電動機にはその端子台やリード線によく「U」「V」「W」という表記がみられます。これに各々、「U」にR相,「V」にS相,「W」にT相を結線することで電動機に定められた回転方向で動作する「正相入力」というかたちになります。
変わって以下の図ではR相とT相の結線を入れ替えることで先の図に対し逆の回転磁界を発生させています。つまり電動機側の端子やリードの「U」にT相を「V」にS相を「W」にR相を結線するということです。正相入力の図に対して、うち二線を入れ替えると三相誘導電動機ではそれまでに対して逆の回転をすることとなります。
2)三相誘導電動機の回転制御回路
すでに説明のとおり、三相誘導電動機では三線のうち二線を入れ替えて接続することでその回転方向を変更することができます。ですので結線としては二つの電磁接触器(電磁開閉器)を用い、各々のコイルが励磁(ON)されたときに電動機に対して相順を入れ替えるように結線すればよいということになります。
以下、主回路では「MCF」と「MCR」の接点で電動機に対してのR相とS相を入れ替えるように結線しています。
操作部の回路では電磁継電器で押ボタンスイッチによる正転起動や逆転起動,停止の信号を送るように構成しています。
操作部から送られてきた信号に応じ自己保持回路で「MCF」「MCR」いずれかの電磁継電器が励磁されるように構成しています。もちろん停止信号も「RSTOP」リレーにより受け取るかたちとなっています。
下の図は先ほど説明した三相誘導電動機正逆転制御回路を簡略化した回路となります。操作部の回路を省いてスイッチで直接電磁接触器を動作させる回路にしています。ちょうど直流電動機の正逆転回路と同じような構成となります。
5.機械側の動きに注意
ここまで各電動機の回転方向変更について説明してきました。電動機単体における回転方向の制御は、方法としては比較的単純であることがおわかりではないでしょうか。ですが、電動機の目的は回転力の創出であり電動機のみを右や左に回したからといってもそれのみでは何の役にも立ちません。
電動機が回転するからにはそのシャフトになんらかの機器が連結されているはずです。この連結された機器が何であるかによって逆回転が許されるのかどうかが決まっています。機械的減速機などが連結されている場合逆回転禁止であることがあります。またファンやポンプは逆に回転するとその効果が半減します。場合によってはほとんど送液や送風の効果が得られないこともあります。
電動機について理解が深まると同時に動作させる対象の機器にも強くなっていく必要があるということです。