過電流〜「水」では説明できない〜

電気の基礎
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1.過電流とは

このサイトでは体験談を含めいろいろな電気でのトラブルについて話をしています。特に直接に電気が起因となる事故については短絡と漏電という記事で解説をしています。しかし、この直接電気が起因となるトラブルにはもう一つよく知られているモードがあります。そのトラブルは「過電流」といわれ、電気業界ではよく耳にする単語です。

広義の意味では短絡によって引き起こされる短絡電流も過電流のひとつであり、「何[A]までを過電流といい、何[A]以上を短絡電流という」という具合の明確な区別はありません。区別としては、異常電流が何によって引き起こされたかです。負荷を介さない電源の短絡によって引き起こされた想定を大幅に超える電流を短絡電流といい、それ以外の回路異常によって引き起こされた想定外の異常電流を過電流といいます。

つまり、過電流という大きな括りが意味することは「設計値や安全な運用すなわち定格を超えるコントロールを逸脱した電流値」とも言えます。

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2.「水」では説明できない過電流

過電流が発生する短絡以外の条件について、よく知られているものが二つほどあります。一つは電動機における過負荷時に発生する過電流です。そしてもう一つは単純な電気の使い過ぎによる過電流です。過電流というには少し違うかもしれませんが、配線の屈曲や挟み込みによる見かけ上の過電流というものもあります。

ここでは電動機に関する過電流について簡単に、そしてもっと身近な電気の使い過ぎによる過電流について少し詳しく解説します。

1)電動機における過電流

電動機における過電流は過負荷時に引き起こされることから「過負荷電流」ともよばれます。例えば工場や商用施設で多用される三相誘導電動機を使用したポンプやファンをなどで特に顕著にみられる現象です。回転のための摺動部つまり軸受(ベアリング)や流体発生のために内部に設置されたインペラーという機械機構に問題が生じ、電動機の回転に著しい抵抗が加えられたときに過電流が発生します。

上記に例として取り上げた三相誘導電動機での過電流の発生メカニズムについては「すべり」の概念や等価回路への置き換えで明らかになります。以下にL型等価回路を図面で載せていますが詳しく知りたい方は「誘導電動機のL型等価回路」や「誘導電動機 すべり」で調べると詳細を知ることができます。

電動機の過負荷による過電流について上記L型等価回路で簡単に説明します。誘導電動機には先ほど述べた「すべり」という概念があり記号「S」で表されます。これは回路中の抵抗値に大きく影響します。始動直後はこのすべりが100[%]、すなわち「1」となります。このとき回路中には「r1+r2’」と「x1+x2」が作用することとなりますが、「r1+r2’」は「x1+x2」に比べて非常に小さいので電流を充分制限できません。その結果、回路中に大きな電流が生じてしまうこととなります。

たとえ回転はしていても極度にその速度が落ちた場合もほぼ同様であり、「すべり」の値が大きいほど回路中に生じる電流は大きくなります。そしてこれが定格を超えていれば過電流と判断します。

2)配線で発生する過電流

次に電気の使い過ぎで発生する過電流とはどのようなものなのかについて説明します。

この過電流は電気火災の原因として話にあがることも少なくないです。電気を使い過ぎたせいで配線が異常加熱され発火するというものですね。よく「水」を使って説明されることもあるようです。「配管に水を流しすぎたから配管が破裂した」という例になぞらえた説明を見聞きします。でも少し待ってください。配管が破裂するほど水を流すというのはそもそも水圧が高すぎるということであり、電気に例えるとそれは過電流ではなく過電圧ではないでしょうか。

水圧が大きければ配管にかかる圧力的な負荷も当然大きくなりいつか配管の強度を超えたときに破裂するということですが、その根本原因は「流れ過ぎ」にあるのではなく「圧のかけ過ぎ」による流れ過ぎの結果であるといえるのではないでしょうか。これと電気における過電流をごちゃまぜに説明してしまうのは少し乱暴ではないかと筆者は考えています。

上の図は電気を説明する際に例えられる水路と水車の図です。図中にあるとおり、電位差を上下タンクの位置的な差すなわち落差に例え、電流を水の流れに例え、電気抵抗を水車に例えて説明するときによく用いられます。電池と配線とランプ等のみ1セットの単純な回路ならこれで充分説明できますが、多くの電気回路のパターンに当てはまるというのは誤解です。

今回のテーマである電気の使い過ぎによる過電流について上図を応用して考えるならば、いくつも水路が分岐し、その分岐した水路の分水車を設置した場合ととらえて差支えないでしょう。しかしそれでは水路への流れ過ぎは起きません。

どうにかして水路で分岐前の幹線となる配管などに流れ過ぎの状態をつくろうとするなら、上部タンクの位置をさらに上へもっていくか上部タンクを加圧するなどの方法で再現できます。しかしこれは過電流ではなく過電圧に相当します。もちろん結果的に過電流のような現象は発生しますがあくまで根本的な原因は加圧にあります。

3)電気では「容量」の概念が必要

ではどのような状態で過電圧が起因しない過電流が発生するのでしょうか。これに関しては皆さんもすでにご存知かもしれませんが、「たこ足配線」に代表される負荷の接続過多によるものです。

「あれ?さっき分岐水路全てに水車を設置しても…って…」

そうです。水路では起きないことが電気回路では起きるのです。電気の世界では電源にも負荷にも「容量」という概念があります。もちろん水路における貯槽にも容量はありますが、電気でいう容量とは少しイメージが異なります。以下簡単に説明します。

電源においての容量は発電機や変圧器などがあげられます。単位時間あたりで供給可能な電力で単位は[VA](ブイエー)です。これらは各負荷ひとつひとつに比べ大きな値であることが一般です。次いで負荷に関してです。単位は[W](ワット)です。消費電力に相当し電動機では「馬力」といわれることもあります。

水車の場合は水の流れを受けて回転しますが、自ら水を要求することはありません。しかし電動機などの電気的負荷には上記の容量という概念があり、これを電圧の印加された回路につなぐとあくまで見かけ上ですが、あたかも負荷が自身のもつ容量に応じた電流を要求するように作用します(もちろん常に容量内の最大値を要求するわけではありません)。

そしていくつも分岐した先に負荷が存在する場合、電源側からみるとその全てで同じように要求をうけるような作用がはたらきます。

水路との違いがここにあります。その違いは電気のどのような性質が生み出すのでしょうか。この辺に関しては配線と負荷という観点からその理由を明確に述べている情報がなかなか見つかりません。筆者はこの電気エネルギー特有の現象について以下のように解釈しています。

電気回路がループしていること、また電気にはプラス(+)極とマイナス(-)極すなわち正孔と電子がありお互いに引き付け合うという性質から水路との違いが生み出されていると考えています。そして電源を含めてループした回路で、各負荷に対して大きな容量をもつ電源から、多くの電子や正孔が供給され続けることで負荷が許容できる分(容量)だけ電気が流れるという解釈です。そこに関係しているのは電源の容量と負荷の容量だけであり、配線の許容電流は無視されていることになります。

もしも電気による現象が全て「水」で説明可能なら、配線を分岐させその全てに負荷をつないだとしても分岐前の幹線が許容する(流せる)分しか電流は生じず過電流にはなりません。そして負荷も動作することができない可能性が高いです。

しかし、これまで説明してきた電気エネルギー特有の性質から、多くの負荷が接続され過ぎた回路では分岐前の配線(幹線)の許容を超えて電流が生じることになります。ですので幹線は分岐先にある全ての負荷に生じる電流を賄わなければならない状態になります。そして過電流となり配線が発熱するということになります。

4)分岐だけが使い過ぎの原因ではない

上記で配線(負荷)の分岐による電気の使い過ぎで起きる過電流をみてきましたが、なにも使い過ぎの原因は分岐だけにとどまりません。たとえ分岐せずとも配線の許容電流を超える容量をもつ負荷なら接続して動作させた後すぐに配線で過電流となります。

15[A]しか流せない配線に容量として20[A]の負荷をつないで動作させたらそれは既に過電流となります。

つまり、配線の許容電流を超えた負荷は接続できないということなのです。負荷を下げるか配線を太くするしかありません。

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3.過電流防止策

では、過電流はどのようにして防げばいいのでしょうか。電動機などの回転機器や摺動機器のコンディションを良好に保ったり、先に少しだけ述べたとおり配線の許容電流と負荷の容量を知りその許容以上の負荷を接続しないということが挙げられますがこれらは少し専門的な考え方と絶え間ない点検が必要となります。ただし、これだけでは電気を使う側のミスがすぐに電気火災などに結びついてしまいます。もっと良い方法はないのでしょうか。

1)すでに組み込まれている

人間の行動に頼りきらない過電流の防止策ですが、すでに至るところに組み込まれており、皆さんもよく目にしています。

ピンときておられる方も多いでしょうがその代表となるのが「過電流遮断器」や「配線用遮断器」です。名前がすでに目的を表していますね。「ブレーカー」などともよばれ、定格を超えると回路を切り離してくれる機器です。電気に関しては特にこのような「保護機器」が必須であり非常に役に立ってくれます。

過電流遮断器や配線用遮断器の他にも負荷開閉器,サーキットプロテクターやヒューズ,サーマルリレーやメーターリレーなどがありますが、いずれにしても電気による事故からこれらの機器が保護してくれます。

使い方や考え方は制御設計と電源~配線・遮断器など~メーターリレーを使う〜保護に最適〜の記事、また電磁力応用機器~回路の開閉~のうち「電磁開閉器」で説明していますのでこちらも参考にしてみてください。

2)過信は禁物

過電流の発生とそれに対する保護について説明しましたが、保護機器を過信してはいけないということも合わせて述べておきます。

保護機器にも能力というものがあり、それを超える事故を防ぐことはできません。ただ、そうでなくとも電気エネルギーを使用する機器を扱う際には使う側がしっかりと取説や仕様書を読み、理解することが求められます。そうすることでより安全に便利に使用でき、その機器からの恩恵を受けることができます。

また、電気工事に従事する人や制御設計に携わる人は使用する人よりももっと深い知識が要求されることはいうまでもありません。自身が施した設計や工事で事故を起こさないためにも電気事故にはどのようなものがあり、それは何が起因となるのかをしっかり理解しておきましよう。

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4.過電流という現象は独特

これまで説明に出てきた「オームの法則」や「キルヒホッフの法則」などは「水の流れ」に例えて説明できる電気の法則でした。しかしながら「過電流」に関してはなかなか「水の流れ」では説明し難い現象であることが今回の記事でご理解いただけたかと思います。電気エネルギー独特の現象ということですね。

電気には、見かけ上で押し引きの作用があることをこの記事から読み取っていただくことがまずは大切ではないかと考えています。「電子」の動きとその受け皿になる「正孔」の動きの理解が今回の過電流現象やその他の電気における現象や技術の理解に役立ちます。

「あれ?」となったときは一度基本に立ち返り「電気ってなんだったっけ?」というところから見直していくことも大切ではないかと考えます。

以上、過電流に関する説明をいたしました。最後までお付き合いくださりありがとうございます。

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