1.ターンテーブルが止まらない
筆者が設備保全という業務に携わりはじめてごくごく間もないころの体験です。今思えば本当に無知であったことを痛感するできごとです。今でも知らないことの方が多いですが…
その日、設備のトラブルの連絡をうけ筆者は現場へ向かいました。
「具体的には何がどうおかしくなっていますか?」と、筆者がたずねると、「あぁ、みてもらえばわかるよ」ということで設備をみると、直径約30[cm]程度のとある部品を搬送するためのターンテーブルがゆっくりくるくる回り続けていました。
「(おぉ…これは妙なうごきだなぁ…)」
本来ならこのテーブルは360°を超えて回転を続けることは無い部分です。おそらく原点を探し続けているのだろうというのは直ぐにわかりました。
「(原点センサーはどこだろう…)」
とりあえず、回り続けていては探すこともできないので、動作を中断してセンサー位置を探りました。
「(あった!これだ。)」
センサーはすぐに見つかりました。溝形のフォトセンサーです。このタイプのセンサーは溝の中に赤い光が見えるはずなのですが、その光は見えていませんでした。
2.断線発見!
「(あれ、おかしいな。光っていない…なんで?)」
よくわからないながらも配線を目視で追いかけていきました。フォトセンサーが光っていない原因はすぐに見つかりました。あまりにもあからさま過ぎたので未熟な筆者でも簡単に見つけることができました。
配線がほぼちぎれた状態になっていたのです。半ば引きちぎられたような配線はかろうじて繋がってはいるものの、被覆は破れ導体がむき出しになっていました。当然のことながらセンサーへは電源も供給されずその反応もあるわけがありません。そのおかげでターンテーブルも原点を探し出すことができずに延々回り続ける結果となったのです(いずれタイムオーバーのようなエラーは出ていたとは思います)。
「(これに違いない!)」
3.配線に触れてみた(これが誤りでした…)
電気や制御に対する知識も経験も今よりずっと浅く、自身で故障原因を見つけることもこれまで少なかった筆者は、原因と思われる箇所を発見できたことがうれしくなりました。
「(そういえば、先輩が『断線が疑わしい時は配線を振ってみて反応をみてみるといいよ』って言ってたな。よし、じゃあここはひとつ。)」
ちぎれかけの配線部に触れてしまいました。先輩の教えてくれた意味をしっかり理解せぬまま安易な行動に出てしまいました。
ですが、見た目でわかるくらいにちぎれかけている配線を振ったところで予想するような反応が返ってくるわけがありません。「?」の状態でしたがとりあえず異常は異常ということでセンサーの交換をするために材料と道具を取りに戻りました。
3.煙が!!!
必要なものを揃え戻ってきた筆者は、さあ作業に取り掛かろうと設備電源を切りました。それから数秒もしないうちにそばにいた人から慌てた様子で声をかけられました。
「takuくん!もしかして煙出てないか?何これ!?」
あまりにも予想の範囲を超えた内容で頭はついていっていませんでした。何を言われているのかわからずに設備の右下あたりに目をやったところ本当にうっすら煙があがっていました。
「え!?なんで!?なにごと???」
作業を中断し、パニックで震える手で煙が見える部分のカバーを開けてみました。
このカバーを開けた中にはいくつもの制御基板が収められています。そのうちの一枚が黒く焦げていました。幸い火がついていることもなく発煙ももうとまっているようでしたが、筆者にはもうなにがなんだかわかりません。どうして煙が出たのか、基板は焦げているのか「なぜ?」だけが頭をぐるぐる回りました。
4.取りあえず作業を進める
わけがわからないまま、作業を進めました。現場からの連絡を受けた先輩も駆けつけてくれました。
「taku、取りあえず落ち着いてセンサーを交換を終わらよう。基板は交換品があるから俺はそれを準備する。すぐに取り換えよう。」
妙に落ち着いた先輩の一言で、筆者も冷や汗ダラダラ半泣きの状態ですが少しずつ落ち着いていきました。そしてセンサーと基板の交換を終わらせました。
5.まさか短絡かっっ!!
センサーと基板の交換をしている最中にわかったことですが、センサーに対する電源供給もこの基板が担っていました。ということは、センサー配線のうち、電源線で短絡をおこせば基板を含む回路で過電流が発生するのは当然なのですね。
ただ、当時の筆者はこうも思っていました。
「(たった数ボルトの電圧で焼損なんてするの?)」
充分あり得ることですね。
たしかセンサーに印加されていた電圧は5[V]か12[V]だったと記憶していますが、どんな電圧であれ短絡などにより極端に回路上の抵抗が下げられるとそこに生じる電流値は大きなものとなります。
例えば5[V]の電圧であったとしても回路の抵抗値が0.1[Ω]なら電流値は50[A]となります。
これが基板の焼損の直接的な原因だと考えられます。
6.電源OFF
今回とりあげた話の最大の失敗は「即座に電源を落とさなかった」ことにあると筆者は考えます。
配線の外傷を見つけたときに、しかもそれが導体むき出しであることに気づいたときに、即座に電源を落としてさえいれば基板まで被害が及ぶことはなかったでしょう。
もし今、筆者が導体がむき出しになった配線を発見したら、その配線に電源電圧が何ボルトであれ印加されていたら「ヒッ!」となってすぐに電源遮断措置にまわると思います…というか現にこれまで幾度となくそうしてきました。24[V]だから、12[V]だから、もっと電圧が低いから大丈夫なんてことは当然あり得ません。電気というのはそういうものです。細心の注意をはらうべきなのです。
7.大切なことを学びました
この事例というか失敗談は筆者に電気というエネルギーに関する大切なことを教えてくれました。ちなみにこのとき焼損した基板はなんと1,000,000[円]を超えるものだったそうです。聞いた時は平謝り以外の手段はありませんでした。でもそんなに高価なものなら保護回路のひとつでも組み込まれていて欲しかった…というのは言わない約束ですね。
しかし、この事例は筆者の電気に関する意識を大きく変化させたとともに設計するときの保護に関する考え方の指標にもなりました。「本当にすみません。」と同時に「二度とこんな間違いをしてはならない!」と肝に銘じました。
本当に手痛い、そして大切な経験でした。