1.動作原理と測定原理
以前の記事で、回路計(テスター)の使い方と留意点などについて説明をしましたが、今回はその回路計を含む電気計器の動作や測定における原理について説明します。まずは指針が如何にして振れるのかに関しての「動作原理」と、そのあと測定対象となる回路における計器の電気的動きから見る「測定原理」に分けて説明します。
計器の動作原理と測定原理を知ることは、これを使用した測定でのミスを減らすことに大きく寄与します。ですのできっちりおさえておいて損はありません。
なお、この記事の対象となる電気計器はアナログのものです。デジタルの計器では電子回路を使用したものとなり、ここで説明するものとは違う原理を利用(アナログ-パルス変換)していますのでご注意ください。
2.指針の動作原理
電気計器の内部では物理現象を応用し指針を動かすことで測定を可能としています。どのような原理で指針が振れ、そして測定を可能としているのかを以下に解説します。
1)可動コイル形
固定された永久磁石に対して、決められた角度内で回転できるようにコイル(可動コイル)が取付けられています。このコイルに電流が生じることで永久磁石間との電磁作用が発生し、回転力が得られることで指針が振れる構造になっています。
直流回路用の計器となり電圧計,電流計,抵抗計に利用されます。
2)可動鉄片形
固定して取付けられたコイルに対して決められた角度内で回転できるように鉄片(可動鉄片)が取付けられています。固定コイルに電流が生じ固定鉄片と可動鉄片が磁化されることで発生する反発力で指針の回転力が得られる構造になっています。
交流回路用の計器となり電圧計,電流計に利用されます。
3)整流形
「1)」の可動コイル形の構造に整流回路を付加した計器となります。整流回路を付加しているということは可動コイル形の計器が直流回路用であることに対して、交流回路用として動作することが可能であるということになります。
電圧計,電流計,抵抗計に利用されます。
4)熱電形
熱線といういわゆる発熱体に測定のための電流が生じることで熱エネルギーが発生します(ジュール熱といいます)。この熱を異種金属をつなぎ合わせた熱電対というもので熱起電力に再度変換し可動コイルに通電することで測定可能としています。
測定時に熱エネルギーへの変換という工程を経ているので直流回路でも交流回路でも使用可能な計器となります。
電流計に利用されています。
5)電流力計形
計器内部の既知の抵抗につながる可動コイルと負荷につながる固定コイルの二種類のコイルから構成される計器です。この二つのコイル間に働く電磁作用を利用して指針の回転力を得ています。
直交流両用であり電圧計,電流計,電力計に利用されます。また、商用周波数では非常に高い精度を誇るため標準計器としても利用されます。
6)誘導形
測定電流が生じる固定コイルと回転可能なアルミの円盤から構成されます。この固定コイルに交流電流を生じさせることで発生する交番磁界によりアルミ盤には渦電流が発生します。結果このアルミ盤に回転力が得られることになります。
前述の計器と少し異なり指針を振れさせる計器ではありません。
交流回路用の電力量計として利用されます。
7)静電形
フライパンのような形をした電極板間に働く静電力を利用して指針を振れさせる計器です。固定された電極とスライドする様に動く電極から構成されます。直交流両用であり、電圧計で利用されます。
8)振動片形
固定コイルと振動片から構成される計器です。コイルに電流を生じさせることで発生する電磁力により振動片を共振させることで周波数を測りとります。
交流回路用であり、用途としては周波数計で利用されます。
3.電磁力の応用
すでにお気づきかもしれませんが、上記に説明した計器の動作原理はその多くが電磁力の応用となります。計器内部のコイルに電流を生じさせることにより発生する磁力を利用して指針を動かしたり円盤を回したりしています。
これは電動機や電磁継電器などの機器でも利用されている物理現象です。電気と磁気はこのような場面でも密接に関わっていることがよくわかりますね。
4.通せる電流は少ない
電気計器は電気で駆動する機器などの負荷のように大きな電流を通すことはできません。そのほとんどはミリアンペア([mA])クラスであり、どんなに大きくても数[A]程度となります。
その理由を明確に記述したものはありませんがまず考えられる理由としては、計器の目的は測定であり電力の消費ではないことが一番にあげられるでしょう。
電力を消費して仕事をするヒーターや電動機(モーター)のそばで電気計器も多くの電力を消費していては、計器としては本末転倒ですね。
上記を鑑みると、電気計器は回路中に接続されるものの可能な限り消費電力を抑えたうえで測定を実現しなければならないことがわかります。
また、計器は可能な限りコンパクトであることを要求される場面もしばしばあります。そうしたときに計器のリード線をはじめ、内部の配線などは必要最低限の太さとなります。これにより計器に通ずることのできる電流値はかなり制限をうけることになります。計器内にごく小さな電流しか通せない理由の一つではないでしょうか。
5.三要素の測定
ここでは、電気の基本要素となる三要素の測定原理について解説します。つまり、「電圧」「電流」「抵抗」の測定方法についての説明です。
これらの測定では、電気回路の基本中の基本であるオームの法則オームの法則が利用されています。既知の抵抗や電圧源を用いることで知りたい回路上の値を導き出すというものです。
ちなみに、アナログ回路計などの電気計器のいったいどこにオームの法則が反映されているのでしょうか。その答えは「目盛」になります。同じく回路計で例えると、カチカチと回すファンクションスイッチで合わせた項目に応じた目盛をよまなければなりませんが、その目盛はすでにオームの法則と比率計算が成された結果が反映されたものとなっています。
その他、「4.」で述べたように電気計器では消費電力を可能な限り抑えなければなりません。このことも踏まえながら読み進めてみてください。
さらに、ここでの解説は直流回路,交流回路共通のものとなります。
1)電圧測定の回路
電圧測定の場合、端子間に電圧計を並列に接続し、既知の抵抗をもつ計器に電流を生じさせることでその値を知ることができます。
計器の仕様を以下で仮定した場合で説明を進めます。
・許容電流:1[mA](0.001[A])
・定格電圧:1[V]
・内部抵抗:1[kΩ](1,000[Ω])
上記仕様の電圧計を使い、端子にかかっている電圧が1[V]以下であること以外は未知である電圧の測定をします。測定対象の端子(端子a,b)に図のように一本ずつリード線を接続します。これにより測定回路に0.5[mA]が生じたとすると、指針は0.5[mA]分振れることとなります。そしてオームの法則より端子間にかかる電圧は0.5[V]であることが判明します。目盛には予め0[mA]〜100[mA]が0[V]〜1[V]となるようにふられている必要があります。
このとき電圧を測りとるための計器の抵抗はかなり大きな値である必要があります。負荷への電圧印加状態で計器の抵抗が小さい場合は計器内への電流が大きくなり、負荷の動作を測定により妨げてしまう可能があります。そしてさらにその抵抗が小さすぎると回路の短絡(ショート)となってしまいます。これを防ぐために電圧を測る目的の計器では測定のための抵抗をかなり大きくしておく必要があるということになります。
2)電流測定の回路
電流測定の場合、計器は負荷と直列になるように接続します。このとき計器内部の抵抗に生じる電流値をそのまま測りとることになります。
電圧測定同様、計器の仕様を以下で仮定した場合で説明を進めます。
・許容電流:1[mA](0.001[A])
・定格電圧:1[V]
・内部抵抗:100[mΩ](0.1[Ω])
上記仕様の電流計を使い、負荷に生じている電流が100[mA]以下であること以外は未知である電流の測定をします。測定対象の回路に割込ませるようにリード線を接続します。電圧測定のように接続してはいけません。回路の短絡(ショート)の原因になります。
負荷を動作させていた回路の電源が0.5[V]で、負荷の抵抗が10[Ω]であったとしたら、計器を含む回路に生じる電流は49.50…[mA](0.04950…[A])となります。
目盛もそのままふっていなければなりませんので、よみ値が素直に電流の値となります。
このとき電流を測りとるための内部抵抗はかなり小さな値である必要があります。上記からもわかるとおり、測定をしない場合では電流は負荷の抵抗10[Ω]に対してのみ生じるので50[mA]となります。しかし今回の測定では約0.5[mA]のズレが生じています。
もしこのときの計器内部抵抗が大きいものであったとしたら、その抵抗の影響で回路上の電流が小さくなり測りとりたい本来の負荷電流の値が大きく下がってしまいます。これを防ぐために電流を測る目的の計器では測定のための抵抗を可能な限り小さくしておく必要があるということになります。
2)抵抗測定の回路
抵抗測定の場合、計器と測定対象負荷がループするように接続します。計器からの電源を利用して負荷に生じた電流値を測りとることになります。
ここでもこれまで同様に計器の仕様を以下で仮定した場合で説明を進めます。
・許容電流:1[A](1000[mA])
・出力電圧:1.5[V]
・内部抵抗:10[Ω]
上記仕様の抵抗計を使い、負荷の抵抗を測定をします。必ず測定対象となる負荷への電源を遮断して負荷を挟むようにリード線を接続します。
計器からの出力により負荷に測定のための電流が生じます。この値が50[mA](0.05[A])であった場合、負荷の抵抗と計器の抵抗を合わせた値が30[Ω]であり、純粋な負荷の抵抗は計器の抵抗を差し引いた20[Ω]となります。
この抵抗測定の場合は電流が大きければ大きいほど抵抗は小さく、また電流が小さければ小さいほど抵抗が大きいということになりますので目盛の大小は逆にふられることとなります。実際のアナログ回路計はそうなっていますね。
また、電流計の場合と同じく計器の抵抗はかなり小さな値である必要があります。この抵抗が大きい場合、計器自身の抵抗が測定のための電流を抑制することとなり、実際の負荷の抵抗とはかけ離れた値となってしまいます。
5.倍率器と分流器
先程までの測定は、計器がそのままで対応可能なごく小さな電圧や電流に対してでした。
しかし実務においての測定の場合、電圧は100[V]や200[V]また400[V]である場合もあります。電流に関してもミリアンペア([mA])クラスを大きく超える場合もしばしばあります。高圧以上の電圧範囲については別としても低圧の範囲は対応してほしいですね。
また回路計などで電流を測定するにあたっては、リード線や内部配線の許容による制限を受けますのであまり大きな電流測定はできませんが、それでも数[A]程度が測れると大変好ましいです。
さらに、高圧の範囲に入る電圧や数百[A]の大電流を測定したい場合は、電圧測定にあってはVT(Voltage Transformer)を電流測定にあってはCT(Current Transformer)を用いる必要があります(ハンディーな計器としてはクランプメーターなどもあります)。
上記のようにVTやCTを用いる場合を除いて、実務上で数百[V]程度の電圧や数[A]程度の電流を測定したい場合はどのような手法をもってして可能としているのでしょうか。
ここでは電圧と電流の測定範囲について説明します。
1)倍率器
「倍率器」は電圧の測定に関して、その測定範囲を変更するために用いられます。
ごく簡単に説明すると、計器内部で直列につなぎ込んだ抵抗のことをいい、電圧降下をさせることで大きな電圧の測定を可能とするものです。
以下の図で説明すると、「RV[Ω]」にあたるのが倍率器です。なお「rV[Ω]」は内部抵抗です。ここでは1[V]までしか測定できない計器に倍率器として99[kΩ]の抵抗を回路に挿入することで、最大100[V]の電圧を測定できるようにしています。
この回路で負荷にかかる電圧を測定したとき、計器の回路に0.5[mA]が生じたとします。すると、オームの法則より負荷の両端にかかっている電圧は50[V]であることがわかります。同時に電源電圧も50[V]であることがわかります。
このとき、倍率器と内部抵抗ではその抵抗の割合と同じく「99:1」の割合で電圧を分担する状態になっています。そしてその目盛は100倍となっている必要があります。
1)分流器
「分流器」は電流の測定に関して、その測定範囲を変更するために用いられます。
こちらもごく簡単に説明すると、計器内部で並列につなぎ込んだ抵抗のことをいい、電流を分岐させることで大きめの電流を測定できるようにしたものです。
以下の図で説明すると、「RA[Ω]」にあたるのが分流器です。なお「rA[Ω]」は内部抵抗です。ここでは100[mA]までしか測定できない計器に分流器として1[mA]の抵抗を回路につなぎ込むことで、最大10[A]の電流を測定できるようにしています。
このとき、分流器と内部抵抗では「100:1」の割合で電流を分担する状態になっています。また計器の目盛も100倍となっている必要があります。
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6.電気計測スキルの習得は必須
今回、電気計器に関する動作原理および三要素の測定原理について解説をしました。ですが、測定も奥が深くここに記載した以外にも多くの技術や規則原則が存在します。電気計測の分野をきっちり理解していけば電気回路にも同時に強くなっていきますので是非焦らず理解していきたいものです。