漏電と停電~異常の原因は何?~

電力と制御の体験記
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1.突然の停電

真夏の暑さが厳しい時期でしたが、ゆったりと休暇を満喫していたある日、見知らぬ番号から筆者の電話に一本の連絡が入りました。

A課長:「takuさんですか。Aです。(筆者の)電話番号を知らなかったのでBさんに訊いて連絡しました。」

電話先から聞こえたのは、とある部署の課長の声でした。

会話の流れは以下のようになります。

A課長:「お疲れ様です。休日にすみません。今、電話大丈夫ですか?取り急ぎ相談がありまして…」

筆者:「ゆっくりしていたところですので大丈夫ですよ。○○課長は出勤されていたのですね。どうされました?」

A課長:「実は、いきなり○○棟(A課長の管轄部署建屋)の電気がつかなくなりまして...困っているところなんです。」

筆者:「そうなんですね。点かないのは何階のフロアの照明ですか?」

A課長:「○○棟全てです...全部の部屋でです。」

筆者:「えっ!○○棟全部ですか?1階も2階もですか??」

A課長:「はい。1,2階両方の全部屋です。まだ外が明るいので周りは見えますが、一切の電気がつきません。」

筆者:「わかりました。いったんブレーカをみてみましょう。各フロアの照明用のブレーカは…おそらく入っていますよね…」

A課長:「はい。いずれのフロアでも確認しましたが“ON”でした。」

筆者:「ですよね…ではもっと大本(おおもと)のブレーカを確認したいのですが、場所はご存知ですか?2階への階段下にある、収納小部屋内にいくつかの分電盤があるのですがお分かりですか?」

A課長:「はい。その部屋も中の分電盤も知ってはいますが、複数あるのでどれがどれか…」

筆者:「そうですよね。収納小部屋に入って正面の分電盤が電灯用なのですが、やはり状態を直接確認したいので、これからそちらに向かいます。」

A課長:「来てもらえるんですか?助かりますが良いのですか?なんだか申し訳ないのですが…」

筆者:「いえ、お気になさらずに。“では週明けに”と放置してももやもやしますし、なにより週明けに部屋が真っ暗では皆さんもお困りでしょう。それと念のため一点お聴きしたいのですが、建屋内にあるコンセントは使えますか?多分使えないと思うのですが…」

A課長:「お察しのとおりです。コンセントが使えないみたいで、ほとんどの分析用機器で電源が入りません。照明よりこちらが深刻です。週明けが思いやられます。」

筆者:「やはりそうですね。なるべく早く復旧にこぎつけるよう、そちらですぐに原因究明いたします。」

A課長:「わかりました。申し訳ありません。お待ちしています。」

この一連のやり取り中に、筆者は身支度を済ませ、急ぎ現場へと向かいました。向かう途中にあれかこれかと考えましたがいずれにしても現地の状況を確認しない限り予測の範疇を超えません。とにかく現地に到着次第、どの系統のどの機器が原因になっているのか素早く判明させなければならないという考えのみでした。

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2.原因調査

現地に到着するとA課長がすぐに案内してくれることとなりました。とはいえ筆者の職場でもありますので二人同時に急ぎ現場へ向かうかたちではあります。

A課長から聴いていたとおり夕方の建屋内が薄暗いにも関わらず、照明は一切点灯できない状態でした。同時にどこのコンセントにも印加されているはずの電圧(AC100[V])はみられませんでした。

状況から察するに、この建屋に引き込まれている主幹を確認することがまず先決であることは間違いありません。先のやり取りに出てきた収納小部屋へ向かいます。小部屋前には中に入っていた古いPCや椅子や机の予備がすでに運び出されていました。筆者が到着するまでに作業が滞らないようにA課長が準備していてくれたようです。

急ぎの作業でこのような協力は非常にありがたいものです。

筆者:「これ、すでに運び出していただいていたのですね。」

A課長:「特に引っ張り出す必要があったかはわかりませんが、takuさんが少しでも作業しやすくなればと思って…ハハハ…」

筆者:「いや、こういうご協力は非常にありがたいことです。感謝いたします。では、すぐに確認作業に入ります。」

A課長:「お願いします。他にできることはありますか?」

筆者:「では、暗くなってきていますので大きめの懐中電灯や電池式のランプなどがあればご準備いただけますか?」

A課長:「わかりました。探してきます。」

こうして各々作業に掛かりました。

まずは、該当分電盤主幹の状態ですが、案の定最上位の遮断器で漏電によるトリップがみられました。

では、次にどの系統で漏電が発生しているのかについてを切り分けていく必要があります。これにより、健全系統は復旧させることができ、ある程度の機器への電源投入が可能になるはずです。

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3.異常の原因は!?

絶縁抵抗計を準備し、およそ20回路における主幹からの分岐用遮断器を遮断し、負荷側を測定します。各コンセントの先には分析用の機器などがまだつながっているので測定電圧をその計器で最も低い100[V]に設定しました。念のため特に高価な機器やPCについては、あらかじめA課長と二人でコンセントから切り離します。これにより回路上の絶縁不良が解消されている可能性もありますがひとまずは確認をしていきます。

1回路目を測定し始めてから、各回路で数[MΩ]~数十[MΩ]という結果が続きます。

約20回路全ての回路を測定し終わった時点で、これらのうち2回路で絶縁不良の結果が出ました。とはいえ多くの回路で10[MΩ]を超えることはなく全体的に低い値が示されました。実はこの建屋の電灯回路の系統は前回の年次点検にて、異常判定ではないものの絶縁抵抗値が少し低いという判定になっており、長期連休などの停電が許される機会に順次個別調査を実施する対象となっていました。

「(年次点検の結果である程度予想はできていたが、やはり多くの回路で1桁[MΩ]台にとどまっているな。そのうえで〇番目の回路と△番目の回路がN.G.か…異常値の回路の先は何がつながっているのだろうか。)」

あらかじめ用意された系統図をもとに絶縁不良の系統がいずれも1階のX室とY室でのコンセントへつながっていることがすぐに判明しました。A課長の協力にて実施の導通チェックでも系統に誤りが無いことがわかりました。

導通チェックと同時にX室とY室のコンセントにつながる負荷機器を切り離し、見える範囲では全て取り除いた状態にしました。

この状態で再度絶縁抵抗測定を実施します。筆者は、これでほぼ確実に絶縁不良の状態から脱したと確信していました。

《〇番回路絶縁測定実施》“ピーーーーーーーーーッ(絶縁抵抗計の基準値以下を示す音)”

筆者:「(えっ!?)」

《△番回路絶縁測定実施》“ピーーーーーーーーーッ”

筆者:「(えっ!?こっちも??まだ何かつながっているのか???)」

両回路を複数回測定しましたが、当然のことながら結果に変化はありません。

筆者の予想に反し、〇番と△番の回路の絶縁不良は解消しておりませんでした。系統図ではコンセントしか接続されておらずこれ以外にどのような負荷が接続されているかについて現時点では情報がありません。

こうなってしまっては系統を目視にて追いかけるということ以外に選択できる方法がありません。非常に泥臭いやりかたではありますが、これが一番近道であると判断しました。

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4.天井裏へ

「(仕方ない。電灯分電盤の負荷側はいずれも上方に立ち上がっている。これらがすぐにどこかへ露出している様子も無い。ということは一度天井裏へ上がっているとみて間違いないだろう。)」

筆者はA課長に天井裏へ上がるための点検口のありかを尋ねました。そしていざ天井裏への移動を試みました。

ですが夕方とはいえ真夏の天井裏です。異常なほどに熱気が篭り、この中での長時間の作業は身体に少なからず影響を及ぼすということが容易に想像できます。可能な限り迅速に対応する必要があります。筆者は一度天井裏から降り、簡易な空調服と保全の事務所にある電池式のファンを準備して再度目的の場所へ移動しました。

A課長と携帯電話で連絡を取り合い対象の〇番回路と△番回路のケーブルを引っ張ってもらう段取りです。立ち上がりで各系統がまとめて緊縛されていないことを願うばかりです。しかし、その作業へ入る前にこの場所での異常にすぐに気づくことになります。

電灯回路の各分岐系統に使用されているケーブルの被覆がどこもかしこもベトベトになっているのです。作業用グローブ越しでしたがすぐに気づくくらい被覆がべっとりと溶融したような状態になっています。これを異常といわずしてなんというのかというくらいにはっきりとしたものでした。

ひとまずは、目的の絶縁不良系統の天井裏ケーブルを特定しました。幸い、引き合っても分からないくらいの緊縛ではなかったのでなんとか系統割り出しは進めることができました。結果やはりコンセントしか繋がっていなかったようです。

ということは、系統の異常の原因はケーブル自体にあるとみるしかないと判断しました。

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5.電気工事の段取りへ

天井裏のVVFケーブルの劣化が原因であるとするならば、最早筆者一人ではどうこうできる問題ではなくなります。すぐに電気工事会社へと連絡をとりました。

電気工事会社担当者B:「お世話になります。」

筆者:「遅い時間に申し訳ございません。急遽段取っていただきたいことがございまして連絡いたしました。」

電気工事会社担当者C:「どうされました?」

筆者:「弊社〇〇建屋内における、電灯回路ケーブルの順次入替え作業をすぐにでもご実施いただいたいです。明日以降で、御社の工事士さんのご予定はいかがですか?」

電気工事会社担当者C:「監督者含め2人は動けます。応援を募ってもう2〜3人居れば大丈夫でしょうか?ちなみになのですが、ひょっとして、何かの理由で回路が全滅とかですか?」

筆者:「全滅ではないにしろ、概ねおっしゃるとおりです。建屋内の電灯回路が絶縁不良です。なお、1階分電盤から天井裏を通って各階各部屋の照明やコンセントに繋がりますので空調服などがあってもかなり過酷な作業になります。なんとか冷風をまわせるように工夫します。」

電気工事会社担当者C:「わかりました。なんとかします。takuさん、明日が日曜なのは不幸中の幸いですね。」

筆者:「ものすごく助かります。そうなんです。御社には申し訳ございませんが、明日が日曜であることが少し幸いしています。ちなみに、天井裏での作業には可能な限り日中を避けて夕方付近から入っていただき、その分それらの時間は各部屋の配線作業に当たっていただくように段取りをしたいです。」

電気工事会社担当者C:「お気遣いありがとうございます。突貫ではなく何日かに分けて実施してもよいということですね。」

筆者:「はい。停電復電を繰り返しながら重要系統を優先に工事を進めていただきたいです。」

電気工事会社担当者C:「承知しました。では明日は朝一番から御社工場に入らせていただき、工事内容の詳細と先ほどの段取り説明を皆にもう一度お願いできますでしょうか。」

筆者:「わかりました。無理をお願いして申し訳ございません。よろしくお願いいたします。」

上記のやり取りにて工事の依頼とし、その日はA課長と片付けをした後に解散となりました。

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6.電気工事実施

翌日の朝、集まっていただいた5名の工事士さん方へ作業の詳細を説明しました。なるべく涼しいうちに工事における現状の把握と、可能なら少しでも天井裏の工事を進めたいという皆さんの希望もあり少し予定外ですが、分電盤を素早く確認した後、1~1.5[hr]の時間制限を設定して一同天井裏へ向かいました。

すでに温度が上がり始めている天井裏で系統特定と目印のためのナンバリングを手際よく進めていく様子はさすがプロだなと感心させられるばかりでした。作業責任者の指示のもと工事士さん方も各々考えながら行動し、意見のフィードバックも適宜実施する姿は非常に頼もしく感じました。

それに加え、さらに驚いたのは皆さんの体力です。これまでの工事でもよく知っていたはずですが、この過酷な状況でも全くペースダウンしない工事士さん方をみていると逆に心配してしまうくらいでした。

筆者は予定より早めに工事士さん方へ天井裏から一度撤収し休憩のあと各部屋への作業へあたっていただくよう促しました。あらかじめ決めておいた系統復旧の優先順を確認しながら皆各々水分補給をします。同時に、休憩自体を普段の工事の倍の回数とるということも伝達しました。

こうして随時内容を確認しながらその日の工事は爆速ですすむこととなります。

夕方16時を回るころ、まだ外気は非常に暑い時間帯ではありますが、送風機にて通気を実施している天井裏は閉鎖状態の時より多少入りやすくなっているため、こちらでの作業再開になります。1名30分以上滞在しないということをルールとしローテーションするようにポジション交代しながら作業をすすめます。

こちらの作業も予想をはるかに超えるスピードで進みます。その日だけで約1/3の系統におけるケーブル交換が完了しました。もちろん最優先で復旧させたい系統は全て更新済です。

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7.他にもあった!

作業責任者の方の指揮力と工事士さん方のスキルと体力によって、予想以上の系統復旧がねらえる状態になりました。筆者は更新済系統をひとつずつ絶縁抵抗測定します。予想のとおり更新各系統はインフィニティー表示となり健全であるという結果が得られました。

更新系統のみで復電をするために、これらの分岐用遮断器を投入し主幹から一括で絶縁抵抗測定を実施します。当然、異常無しでしょう。…が、その淡い期待は即座に否定されました。

一括絶縁抵抗測定の結果はほぼ0[MΩ]。主幹からの一括測定でのみN.G.判定ですので、ここに原因があることは明らかです。主幹のブスバーが盤内で地絡しているなどの突拍子もないことは考えられませんので何処かに不健全系統が繋がっているはずです。

盤内の配線を丁寧に探っていくと…見つかりました。ブスバーの一番下に遮断器無しでぶら下がる配線があったのです。

工事士さんとの協力のもと、系統を追うとこれは、とあるピットの水中ポンプに繋がっていました。

A課長にこれがしばらく動かないかもしれないことを先に伝え、それでも問題無いことを確認した後に主幹から切り離しました。そしてそのうえで系統の絶縁抵抗を測ったところ、インフィニティーではないものの充分に高い値を示し、結果は異常無しとなりました。

なお、問題の水中ポンプですが、こちらはポンプそのものが絶縁不良となっており、特ににケーブルは問題無いようでした。ここには別のフロート付き水中ポンプを用意し、仮設の別電源から電力供給することで凌ぐ対応としました。

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7.仮復旧と断続作業

電源投入を試みて、更新系統の正常な電源供給を確認した後に、この日の作業はここまでとしました。

週明けから最低限必要となる機器への電源供給も可能となり、ひとまず建屋内の部署における業務が滞ることも回避できました。ですが、まだ問題の系統は残っています。絶縁抵抗値こそ異常値ではないもののケーブルの外観上で判断すると放置するわけにもいかず、一斉更新が最善の手段であると考えたため、この作業を週末毎に進める方針に変更はありません。

というわけで、毎週末に工事を実施した結果、翌週と翌々週の作業で工事の工程は完了しました。

作業に直接従事してもらった工事士の方々はもとよりPCや試験機器の管理においては社内での協力も得て、大きなトラブルを招くこともなく淡々と工事は進みました。

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8.復旧完了

全てのVVFケーブル更新完了にて作業が完了し、筆者は絶縁抵抗計を片手にまずは各系統個別の値を測定しました。結果は言うまでもなく良好、全系統においてインフィニティーかその付近である抵抗値を示しました。

次いで、一括測定を実施。こちらにおいても良好であり一切問題ない判定となりました。

ここまで来ると、特に動じることもなく電源の投入ができます。とはいえ念のため主幹の漏電遮断器を先頭に順を追って各系統の電源を投入していきます。順次投入の最中にいきなり点灯する照明などがありましたが、これがなぜか安堵する一要因になったりもしました。

周囲で待機してもらっていた工事士さん方もひとつずつ電源投入されるたびに安堵していっているようにみえました。

そして全回路の電源復旧終了にて本当の意味で工事完了となりました。

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9.後日調査

今回のトラブルでは、電灯回路に使用されていたVVFケーブルとある回路の水中ポンプに絶縁不良の異常がみられたということでした。

ここで勘の鋭い人ならば疑問が生じるかもしれません。それは「動力系統は存在しなかったのか?存在するならその系統のケーブルはどうだったのだろうか?」という疑問です。

こちらに関しましては筆者ももともと気になっていたので調べてみました。ケーブルのさらされていた環境は、おそらくですが非常に希薄ではあるが酸性雰囲気下であったことと、確実に高温多湿であったことが考えられます。この点を踏まえケーブルの耐酸性と耐候性の視点から簡単にではありますが調べてみました。

結論を述べると動力系統に使用されていたCVケーブルと今回問題の起きたVVFケーブルでは耐酸性の面で明確に違いがあるということです。最外被であるシースは双方「ビニル」であることのみで大きく違いがあるようには見受けられませんでした。「ビニル」にも耐候性に優れているという特徴はあるようですが、耐薬品性に関しての情報は乏しい結果です。しかし、絶縁体といて用いられている素材には大きな特徴の差がありました。VVFケーブルでは絶縁体にも「ビニル」が使用されているのに対し、CVケーブルでは「架橋ポリエチレン」が使用されています。この「架橋ポリエチレン」は耐熱性に優れ(電気主任技術者試験でも出題されます)また耐候性に優れています。さらに酸,アルカリなどの耐薬品性に優れているとのことです。これが決定的な差になったのではないかと考えられます。

しかしながらそもそも論として、極少量とはいえ酸性の雰囲気が天井裏に滞留していたことがもし影響していたのであれば、これ自体をなんとかすべきです。確定要素とは言い切れない部分がありますが、今回の事例を受け、A課長には除害システム全体の更新を一気にではなくとも随時部分的に実施してもらえるよう相談しました。

A課長も同じ考えであったようで、予算取りから積極的に進めていくことを表明してくれました。

今回のトラブルは非常に深刻で大掛かりな工事になりましたが、とても勉強になる事例でした。また、やはり何を成すにも周りの協力やバックアップが大きな力を発揮することも改めて認識させられました。